第1回 パーパスと経営との連携性――経営に活用できるパーパスを作るには?
「パーパスの話ってあまり聞かなくなったったよね。やっぱり流行りだったんだ」「パーパスって簡単に作れるんじゃない?」――近頃、そんな声を耳にする。確かに、経営におけるパーパスの必要性がさまざまな書籍や論文で声高に叫ばれていた頃と比較すると、落ち着いてはいる。さらに、パーパスの構築プロセスを聞きかじった人の中には「どういうプロセスで作るのかわかっているから、自分でも作れる」と安易に考えている人も多いようだ。
パーパスへの理解はまだまだ浅い
しかしあえて厳しいことを言うと、実際には多くの日本企業がパーパスを本質的には理解できておらず、浅薄なレベルにとどまっている。パーパスについて論じる以前に、まずは知識を整理し、深めなくてはならない。というのも、こんなケースが頻発しているのである。
- やっとパーパスが完成しグループ本社の社長に説明しに行ったら、ほめられるどころか「お前のところは事業会社の一つなはず。なんでパーパスが必要なんだ。グループ全体の企業理念と行動規範で十分だ!」と叱責された。
- 忙しい役員を束ねてやっとパーパスができた。説明会を開いて社員に説明をしたら、質問もコメントもなく、「それって、社長とか役員の問題ですよね。で、我々は何をやれば良いんですか?」という超冷めたコメントをもらった。
- パーパスを各事業部長に説明し、これからは各事業部単位で責任を持ってパーパスを浸透させてほしいと言ったら、「ただでさえ忙しいんだから、そんな時間はない。そもそも人事部のやることでは?」と突っぱねられた。
パーパスを作ってみたは良いが、経営層と社員に溝があり先に進めない。浸透は大事だと思うけれど、その旗振り役を誰にどう任せるべきかがわからない。ただでさえ冷めた社員が多いのに、彼らにパーパスに興味を持ってもらうにはどうしたらよいかわからない。そもそも毎日の仕事への活用の仕方がわからない……。これらはまさに、パーパスへの理解が浅いからこそ発生している事例である。
まずは必要性を徹底的に議論する
ではどうすればこのような事態に陥らず、意味のあるパーパスを構築して、経営に活用できるようになるのだろうか。実は、構築前、構築途上、構築後に分けて、緻密なアクションが必要になる。
まず構築の大前提として、「パーパスから何を得たいのか」「なぜ今、パーパスが必要なのか」、その答えが必要である。パーパスの構築プロセスに入る前に、社長を含めた役員全員が完全に一枚岩になり「なるほど、我が社にはパーパスが絶対的に必要なんだ」という強固なコンセンサスを持たねばならない。あった方がベターなんだろう、という甘い考えは全く意味がない。
役員の間でパーパスの必要性をしっかり議論しないままに構築に入ると、パーパス案が出てきても、盛り込むべき考え方が定まらず、議論に収拾がつかなくなる例をいくつも見てきた。
パーパスにどんな言葉が必要かは重要な論点であり、具体的な構築に入る前にすり合わせておくべきである。大事なのは、「将来の持続的な成長のためには、どの事業領域に踏み込むべきか。そのビジネスを現実的に拡げていくためには、どのような自社らしい発想、態度、行動が必要か」という問いである。
では、具体例を見てみよう。