日本の脱炭素経営を調査 物流・情報通信などで改善目立つ  

BCGは日本企業のカーボンニュートラル(CN)経営、およびサステナビリティ経営の成熟度を測る「BCGカーボンニュートラル・インデックス調査」を行った。調査は2023年9月~10月に実施し、2022年に続き2回目。日本企業の成熟レベルは前回と変わらず4段階の下から2番目の「2」だが、スコアはやや上昇した。一方、脱炭素をきっかけとした新規事業開発ではスコア後退が見られ、CNを切り口に“攻め”へ転換することへの難しさが浮き彫りになった。

調査のねらいは、脱炭素に向けた日本企業の進展度を定量的に把握すること、また各企業が自社の取り組みを相対的に確認できることで意思決定に役立てることにある。今回から、重要性が高まっているサステナビリティ(生物多様性の保全、廃棄物削減、人権)についての調査項目を追加した。

日本企業のCN経営は着実に進展

調査の枠組みには、BCGのCN経営についての考え方が織り込まれている。「1.経営戦略を示す(戦略や基本的な方針の策定)」を起点にして、3つの柱となる活動を推進するというものだ。3つの柱とは、「2. 要件を充たす(排出削減目標の設定、排出量の把握・削減)」と、「3. 競争優位性を構築する(既存事業のビジネスモデルの変革)」、「4. 新規事業機会を探索する(脱炭素を機会ととらえた攻めの領域)」だ。さらに、実行にあたっては「5. 実現するための基盤を構築する(具体的な投資、人材確保など)」ことが必要となる。これら5つの観点での成熟レベルを1~4の4段階で評価している。

日本企業全体の成熟レベルは、昨年と同様レベル2 。ただしスコアは約2.1から約2.2へと、0.1ポイントほど上昇し、グローバル先進企業との差もわずかに縮まっている(図表1)。なかでも「2. 要件を充たす」が約2.5と高く、昨年比約0.3ポイント上昇した。一方、グローバル先進企業との差が特に大きい項目は、「3. 競争優位性の構築」、「4. 新事業機会の探索」、「5. 実現するための基盤を構築する」だった。先進企業では戦略の策定や、実行に即した体制整備が進んでいることが見て取れる。

日本企業は、昨年の課題だった「5. 実現するための基盤を構築する」が、レベル2に向上した一方で「新規事業機会を探索する」はレベル2からレベル1に後退した。調査を担当したマネージング・ディレクター&シニア・パートナーの丹羽 恵久は「計画から実行へ移す段階で多額の投資が必要なことなどもわかり、実行の困難さも感じたのではないか」と語る。

2022年から連続で調査に参加している企業群を対象にした分析では、スコア向上はより顕著だった。この分析でも、「2. 要件を充たす」、「5. 実現するための基盤を構築する」がスコア向上のカギとなっている(図表2)。

エネルギー、鉄鋼など排出量が多い産業で進展

産業別では、昨年同様、エネルギー、鉄鋼・非鉄・鉱業など、CO2排出量が多い産業で取り組みが進んでいることが見て取れる。だが今回、直接のCO2排出量が小さい産業でも徐々に取り組みが本格化していることが明らかになった。例えば、物流業や情報通信業は、昨年のレベル1からレベル2になった(図表3)。

サステナビリティ経営はテーマの選定がカギ

サステナビリティ経営については、生物多様性や自然資本の保全、廃棄物削減とサーキュラー(循環)、人権デューデリジェンス(人権侵害のリスクを評価して予防・是正に努めること)を取り上げて成熟度を診断した(図表4)。全体の成熟度はレベル1。特に生物多様性・自然資本の保全についての目標設定や、新規事業の検討などの進捗が鈍い。

ただし、グローバル先進企業でもサステナビリティ経営でレベル4に達している項目は人権デューデリジェンスのみで、平均スコアは3.1にとどまる。サステナビリティ関連の幅広いテーマのなかで、自社の施策の方向性を具体化するのが難しいことがうかがえる。まずは、自社の属する産業にとって重要度の高いテーマを選定することがカギとなる。


調査を監修した、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授(BCGシニア・アドバイザー)は「脱炭素化に向けた企業の取り組みがグローバルで加速する中、今回の調査で日本企業のCN経営の進展を確認できたのは喜ばしい。今後は、もう一段の加速化に向け、新しい事業機会を構築することや、企業内での意思決定プロセスとの紐づけ等に取り組む必要があることも明らかになった。また、生物多様性などサステナビリティのテーマについては、脱炭素化とも相互に関係しており、今後重要性が増すことも想定され、調査をきっかけに企業の認識が高まることを期待している」とコメントしている。

調査レポート「BCGカーボンニュートラル・インデックス レポート

調査概要
東証プライム上場企業265社を対象に、「BCGカーボンニュートラル・インデックス」に基づいて評価
実施時期: 2023年9月~10月
評価方法: カーボンニュートラル(CN)経営に関して、5つの観点「1. 経営戦略を示す」「2. 要件を充たす」「3. 競争優位性を構築する」「4. 新事業機会を探索する」「5. 実現するための基盤を構築する」と、それらを詳細に分解した21の評価項目について、「レベル1: CN経営への準備・部分的着手段階」「レベル2: CN化への取り組みに全社的に着手」「レベル3: CN化に向けた取り組みを加速」「レベル4: CN経営のフロントランナー」の4段階で成熟度を診断した。サステナビリティ経営に関しては、7つの評価項目を設定。それぞれの評価項目について、同様に「レベル1~4」の4段階で成熟度を診断した。