イノベーション企業ランキング2023 アップルが1位、日本勢は30位以下に

BCGの調査を基にした2023年の「イノベーション企業ランキング」は、アップルが4年連続1位となった。一方で、かつてイノベーションを得意としてきた日本企業はトップ10にランクインしなかった。企業がイノベーション能力を高めるには、何が必要なのだろうか?不確実性が増す現代におけるイノベーション巧者の特徴を、調査結果から読み解く。

韓国サムスン7位、中国ファーウェイ8位に入る

ランキングは、世界の経営層約1,000人へのイノベーションに関するアンケート調査の結果やTSR(株主総利回り)などを基に作成している。まずは最新のランキングトップ50を見ていこう(図表1)。この調査が行われた2022年はテクノロジー業界の複数の企業で大規模な人員削減が行われるなど業界への逆風が強まったにもかかわらず、トップ10のうち5社をテクノロジー企業が占めている。アップルが4年連続の1位となった。4位アルファベット(グーグルの親会社)、5位マイクロソフトも上位の常連であり、2位のテスラも本調査では自動車業界に分類しているが、その実態はテクノロジー企業といっても過言ではないだろう。

またエネルギー企業がトップ50に5社ランクインした。気候変動への懸念が強まるなか、エネルギー企業が気候変動に対する創造的な解決策の一端を担うのではないかという期待を反映しているとみられる。

日本企業は、ソニー(31位)、日立製作所(33位)、NTT(47位)の計3社がランクインしたものの、トップ10には名前が見られない。一方でサムスン(韓国)が7位、ファーウェイ(中国)が8位と他のアジアの企業の存在感が強まっているといえるだろう。

世界の企業の約8割がイノベーションを優先課題に

世界の経営層は、イノベーションについてどのように考えているのだろうか。調査結果を踏まえると、世界経済の不確実性は増しているにもかかわらず、イノベーションは企業の最優先課題であり続けているようだ。回答者の79%がイノベーションを2023年の優先課題上位3項目の1つと位置づけている(図表2)。66%がイノベーションに関する支出を増やす予定と答え、うち42%が支出を10%以上増やす予定だ。前回の景気後退期である2009年の調査では優先課題上位3項目にイノベーションを掲げた企業は3分の2以下、支出を増やす予定と答えた企業は58%に過ぎなかったことから、イノベーションの重要度は高まっているといえそうだ。

不確実性が高まるなかでイノベーションを起こすために注力すべきことの1つが、M&Aの活用だ。調査結果の分析からBCGが定義した「イノベーションの準備ができている企業」は、そうでない企業に比べM&Aを積極的に活用している。新しい技術やプロセスを獲得するためにM&Aを利用し、イノベーションの専門家をM&Aのターゲット選定に関与させている(図表3)。

買収を通じてイノベーション能力を高めている企業が米マクドナルドだ。同社は2019年に音声ベースの会話技術を開発するApprenteと、パーソナライゼーションを得意とするDynamic Yieldのスタートアップ2社を買収した。その後、パンデミックにより外食事業が大打撃を受けている間、彼らの技術を活用してドライブスルーの注文時間を30秒短縮し、店舗での食事が制限される中でも自社への影響を抑えられた。同社はまた、データ分析とグローバルなマーケティングインサイトを組み合わせることで、店舗内とデジタルでの顧客エンゲージメント(愛着、信頼関係)を向上させる顧客体験チームを設立した。AIを活用した予測・推奨アルゴリズムを使って、顧客が購入したくなる可能性の高い商品をデジタルメニューで目立つように表示している。

企業が最も大きく投資している技術はAI

AIはイノベーションの可能性を急速に広げている。調査によると、61%の企業が2023年にAIと機械学習に投資すると回答している。これは投資対象の技術として2番目に回答が多かった「ロボティクスとプロセスオートメーション」よりも15%ポイント高い数字だ。

AIに投資する企業の83%が1つ以上のユースケースでイノベーションをサポートするためにAIを体系的に導入しているが、それをビジネスインパクトにつなげることができている企業は45%にとどまっている。これらの企業は、他の企業の5倍以上のアイデアを生み出し、2倍以上のMVP(Minimum Viable Product:必要最低限の機能を備えたプロダクト)をインキュベート(考案・開発)している。 AIを導入することでより多くのアイデアを生み出すことができ、アイデアが多いほどAIの最適なユースケースを見つけられる可能性が高まる。先行する企業は、この好循環をつくり出していると言える。

レポートの共著者でBCGコーポレートファイナンス&ストラテジーグループの元グローバルリーダー、木村 亮示は次のようにコメントしている。「イノベーションと成長、そして優位性の関係性はかつてないほど強くなっている。イノベーションを優先課題と位置づけ、行動する準備を整えている企業は、今後もリードを広げ、大きなリターンを得るだろう」

調査レポート:Most Innovative Companies 2023: Reaching New Heights in Uncertain Times(2023年5月)

調査概要:
世界各国の広範な業種の経営幹部を対象に、イノベーションに優れた企業や自社のイノベーションへの取り組みについて訊ねた調査。初回は2004年に実施し、17回目となる今回は約1,000名から回答を得ている。調査は2022年12月と2023年1月に実施した。
ランキングの作成にあたっては、企業のパフォーマンスを以下の4つの項目で評価し、スコアの平均を取った。
1) 全回答者からの得票数
2) 自社の業界からの得票数
3) 異業種からの得票の多様性指数(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)
4) 2020年1月1日から2022年12月31日までの3年間のTSR(株主総利回り、自社株買いを含む)