職場における包摂性 「ありのままの自分」を出せる環境を築く 

職場で「ありのままの自分」を出せる従業員は、より幸せを感じ、ベストを尽くす意欲があり、自分の意見が尊重されていると感じており、離職する可能性が半分以下である――BCGが開発したBLISSインデックスによる調査で明らかになった。企業におけるダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)の推進には、経営陣の多様性やコミットメント、心理的安全性の構築など、リーダーが果たす役割が大きいという。

取り組みが難しいインクルージョンを測定

職場における包摂性(インクルージョン)は、その定義や測定の難しさから、企業のDEI活動の中では優先順位が低くなる傾向にある。「包摂性の実感」とは、どういう状態を指すのだろうか?BCGは、「大切にされ尊重されている/自分の意見が重要だと思える/幸福感やモチベーション、自分の居場所がある/心身の健康をサポートされていると感じること」と考えている。

この「包摂性の実感」を、できるだけ主観を排除して数値化することを目的に開発されたのがBLISSインデックス(注1)だ。開発のベースとして、日本を含む世界16カ国、27,000人以上を対象に調査を実施し、職場におけるどういった要素が包摂性の実感を高めるのかを分析した(例えば、「職場で評価されていると感じる」と答えた回答者は包摂性の実感が高い、など)。また、回答間の相関関係を分析し、離職リスクに大きな影響を与える要素を特定した。BLISSインデックスは1~100で表され、スコアが高いほど包摂性の実感が強い。

2023年2月にBCGが発表したBLISSインデックスに関するレポートによると、従業員の包摂性の実感を改善する(すなわち、BLISSインデックスのスコアを改善する)ことで、離職リスクの低減などの形で、企業にも大きな価値がもたらされる可能性がある。

自分を隠す必要があると感じると包摂性の実感は低下する

調査の結果、「ありのままの自分でいられる」ことは、全ての従業員にとって包摂性の実感と強く結びついていることがわかった(図表1)。BCGでは「ありのままの自分でいられる」ことを、「性的指向、人種、健康状態、社会経済的背景、生活環境など、従業員が重要視する自身のアイデンティティを周囲に共有できると感じること」と定義している。

全てのグループの従業員において、「職場でありのままの自分を出せる」と感じている人は、そう思っていない人に比べてBLISSインデックススコアが2倍高くなっている(図表2)。

さらに、「職場でありのままの自分を隠す必要がある」と感じると、包摂性の実感の格差が広がることも明らかになった。同僚にカミングアウトしているLGBTQの従業員の73%が「職場でありのままの自分でいられる」と感じているのに対し、カミングアウトしていない従業員ではその割合は53%にとどまった。

経営陣や上司が主体的に心理的安全性を築く

BCGはBLISSインデックス調査に基づき、従業員の職場における包摂性の実感を高めるために重要な要素として、次の4つを提示している。

①経営陣が大々的にコミットメントを示す

経営陣がDEIに取り組んでいる場合、84%の従業員が評価、尊重されていると感じているのに対し、取り組んでいないとみなされている企業ではその割合は44%にとどまる。非白人、LGBTQ、障がいのある人の約3分の1が、その企業の組織文化に包摂性が欠けていることを理由に、職務に応募しない、またはオファーを受け入れないと選択したことが明らかになっている。

経営陣の多様性を高める

経営陣に多様性がある場合、85%の従業員が職場に帰属意識をもっているのに対し、多様性がない企業ではその割合は53%となっている。女性、非白人、障がいのある人、LGBTQなどにとどまらず、年齢、社会経済的背景、教育水準、仕事以外での育児・介護の状況なども考慮する必要がある。

直属の上司がDEIに取り組むことで、チーム内の心理的安全性を築く

経営陣がDEIに取り組んでいる場合、83%の従業員が「直属の上司もDEIに取り組んでいる」と回答し、86%が「直属の上司が心理的に安全な環境をつくっている」と答えている(経営陣がDEIに取り組んでいない企業では、それぞれ17%、29%)。調査によると、年配の従業員、職位の低い従業員、恵まれない社会経済的背景をもつ従業員は、職場で心理的安全性を最も感じにくく、直属の上司の行動は彼らの実感に影響を与える可能性がある。

差別や偏見のない、誰もが尊重される環境をつくる

差別や偏見、相手を尊重しない行動を目にしたり、経験したりした従業員は、仕事を辞める可能性が約1.4倍高くなる。一方、経営陣がDEIに取り組んでいると信じることができた場合、従業員がそうした行動に対し安心して声を上げられる可能性が33%ポイント高くなる。不適切な行動に対して発言する勇気を持てたり、対処の結果を確認したりすることができれば、職場でありのままの自分を出しやすくなり、より包摂性を感じるようになる。

調査をリードしたBCGシカゴ・オフィスのマネージング・ディレクター&パートナーのGablielle Novacekは、「職場における包摂性の実感を促すうえで、経営陣が担う役割は大きい」と指摘している。

注1: BLISS=Bias-free, Leadership, Inclusion, Safety, and Support

調査レポート: Inclusion Isn’t Just Nice. It’s Necessary.(2023年2月)