異常気象が環境に優しい商品購入のきっかけに――サステナブル消費者調査

2023年の夏は史上最も暑かった。気象庁の発表では、6月~8月の平均気温は、1898年の統計開始以来最高値を記録。世界的にも歴史的な高温となり、「地球沸騰化の時代」(国連のグテーレス事務総長)だという。数十年前には考えられなかった暑さや毎年のように起きる大雨被害、また海外では森林火災の被害も記憶に新しい。 

これらの異常気象が消費者の環境問題への意識を変えている可能性があることが、BCGが行った調査で明らかになった。日本の消費者は欧州に比べ環境への意識が低いが、見え始めている変化の兆しを「サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果」から解説する。 

「環境負荷の少ない商品を選んでいる」消費者は3 

BCGは、環境に関する消費者意識の変化を定点的に観測することを目的に2021年から調査を行っている。今回の第7回調査は日本全国の15歳~69歳の男女を対象に2023年7月に実施した。 

「環境に負荷をかけない商品を買いたい」と回答した消費者は全体の68%、そのうち、すでに「環境負荷の少ない商品を選んでいる」と回答したのは32%だった。この層に理由を聞いたところ、「最近の暑さや寒さなど、気象の変化を感じるから」と回答した消費者が49%と最も多かった。昨今の異常気象を受け、気候変動の問題が自分の生活に影響を及ぼす実感が高まったことが、消費者の購買行動を変える要因と考えられる。 

一方、環境負荷の少ない商品を買いたいが、現状では選んでいないと回答した人にその理由を聞いたところ、「どんな商品が環境負荷が少ないのかわからない」という回答が1位だった。調査を担当したプロジェクトリーダーの伊原彩乃は「消費者を環境に配慮した購買につなげるためには、環境負荷に対する具体的な情報提供が必要であることが明らかになった。「エコである」「サステナブルである」といった漠然とした情報にとどまらず、CO2排出量を示すカーボンフットプリントなどの環境負荷を具体的に表す情報の提供が企業には求められる」とコメントしている。 

10代は環境負荷の低い買い物をしている割合が最も高い 

「環境に負荷をかけない商品を買いたい」、「環境負荷の少ない商品を選んでいる」と回答した割合を年代別で見ると、20代から上は年代が高まるにつれて割合が高まるという傾向が見られた。一方で、10代は「環境に負荷をかけない商品を買いたい」が74%、「環境負荷の少ない商品を選んでいる」37%と年代別で最も高い結果であり、その他の年代の傾向から外れる形となった。 

そこで10代の情報収集手段について見てみると、「学校での接触」が31%に上り、他の年代の「職場・学校での接触」が10%に満たない中で特徴的な結果になった。昨今の環境教育の充実化が10代を中心とするZ世代(1995~2009年生まれ)において高い環境意識を持つ層の醸成に寄与していると考えられ、この世代が成長することで、高い環境意識を持つ消費者のさらなる増加が見込まれる。ただしこれは、「Z世代の環境意識が全体的に高い」ということではないため、企業としては「Z世代」とマスでとらえないことが重要となる。 

環境問題に対する認知は2年前から緩やかに増加 

次に、消費行動に限らず、環境問題全体の認知・行動について見ていきたい。「地球温暖化/気候変動問題を知って、行動を変えた」と回答した消費者は、調査を開始した2021年と比べて15%から19%と緩やかに増加し、環境問題に関心が高い消費者が着実に増えていることがわかる。 

特に40代、50代は、2年間で約5%ポイント増加しており、昨今テレビ番組などでも環境問題に関する報道が増えるなか、テレビを主な情報収集手段とする40代以上の消費者の関心が高まっていることが考えられる。 


3割の消費者が環境への取り組みを職場選びの基準に 

ここまで消費者という立場からの環境意識について見てきたが、企業にとって消費者は視点を変えると従業員、あるいはその候補とも捉えられる。調査では、職場を選ぶ際に企業の環境問題への取り組みをどの程度重視するかについても質問した。「重要な基準になりうる」「基準の1つになりうる」と回答した消費者は合わせて27%で、2021年と比較すると4%ポイント増加した(図表5)。この質問は現在仕事をしている人を対象にしているため、今後、環境意識が高いZ世代が職に就くにつれて、職場選びの際に環境への取り組みを重視する層は増えていくと予想できる。企業の環境への取り組みは、消費者・顧客に向けてだけでなく、優秀な人材を獲得するという側面からも重要性が高まるだろう。

ここまで見てきたように、環境意識は全体が平均的に高まっていくのではなく、「環境意識の高い層」が増えていくということに注目すべきだろう。気象の変化のようにポジティブとはいえない背景はあるものの、環境教育の充実も含め、環境意識の高い層が増える要素は日本にそろいつつある。企業には、環境意識の高い層に響く深い情報提供が求められている。「サステナブルである」という漠然とした情報提供にとどまらず、「具体的にどの程度サステナビリティに貢献しているのか」を示す環境ラベルやカーボンフットプリントといった一歩踏み込んだ情報が必要ではないか。 

 調査レポート:第7回サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果(2023年9月) 

調査概要: 
日本全国の15歳~69歳の男女を対象にインターネットで実施。人口動態に応じ、ウエイトバックして集計。第7回は2023年7月24日~26日に実施。n=3,300。 

過去の調査:調査結果はこちらから

  • 第1回:2021年2月5日~7日 n=10,000  
  • 第2回:2021年4月13日~15日 n=3,000 
  • 第3回:2021年7月9日~11日 n=3,000 
  • 第4回:2021年12月6日~8日 n=3,000 
  • 第5回:2022年4月27日~28日 日本/10カ国比較、各国n=1,000以上 
  • 第6回:2023年1月13日~16日 n=3,300