【アースデー】気候変動で農産物生産量は最大35%減少 食料供給網を強くする7つの打ち手

気候変動は地球規模で着実に進行しており、私たちの食料システムに変化をもたらしている。異常気象の激甚化に加え、紛争や貿易制限が重なり合うことで、これまで安定供給を支えてきた前提は揺らぎ始めている。

気候変動による生産減は恒常的に進行している

BCGと、その傘下でサステナビリティ領域を担うQuantisは、気候変動の加速が2050年までに与える影響を分析した。対象としたのは、バナナ、カカオ、コーヒー、綿花、落花生、トウモロコシ、タマネギ、パーム油(アブラヤシ由来)、ジャガイモ、コメ、大豆、テンサイ、サトウキビ、茶、トマト、小麦の15の主要農産物だ。これらは世界の農産物生産量の65%、および総カロリー摂取量の70%を占める。

分析の結果、これらの農産物の生産量は平均12%、最大で35%減少する可能性が示されている。減少幅は農産物によって大きく異なり、特にカカオやサトウキビでは大幅な減産が見込まれる一方、トウモロコシのように影響が限定的なものも存在する(図表)。

気候変動が主要農産物の生産量に与える影響を示す図。コメなどで減産が見込まれる一方、影響の大きさは作物ごとに異なる。

生産減は、まず国や地域の需給バランスに影響を及ぼし、やがて国境を越えて波及していく。また、主要生産国のGDPと農家の収入も大きな打撃を受ける。農家にとっては収入減少が投資余力を奪い、灌漑や土壌改良といった適応策への投資が難しくなる。その結果、生産性の回復が遅れ、気候変動の影響がさらに増幅されるという悪循環が生じる。

食料供給不安を引き起こす構造的な要因

こうした生産減の広がりは、食料供給全体の不安定化へとつながっている。近年では、気候変動に加えて紛争など複数の要因が連鎖し、その影響が世界規模で表面化している。2022年には、タイの干ばつやカナダの熱波による菜種被害に加え、ブラジルやアルゼンチンの大豆減産、ウクライナ戦争によるひまわり油供給の停滞などが重なり、植物油全体の供給が逼迫した。本来であれば他の品目で補完されるはずの仕組みも、同時多発的な混乱のもとでは機能しにくくなっている。

こうした供給不安は、主に次の4つの構造的要因から生じている。

1つ目の要因は、異常気象などの影響が特定地域に集中することである。生産が不安定化すると、各国は国内供給を優先して輸出規制に踏み切る可能性が高まる。実際にコメの主要生産国の1つであるインドは2022年と2023年にコメの輸出制限を実施しており、こうした動きは国際市場の供給を大きく揺るがす。輸出規制が強まった場合、輸入国では30〜50%の供給不足が生じる可能性も指摘されている。

2つ目の要因は、特定の農産物の生産が限られた地域に依存していることだ。この場合、代替供給の確保は容易ではない。例えばカカオは西アフリカに生産が集中しており、気候変動や病害の影響により供給不安が顕在化している。新たな供給源の開拓には長い時間と投資が必要となる。

3つ目の要因は、単一品種への依存である。特定の品種を集中して生産しすぎると、病害や環境変化によって一気に生産が崩れるリスクが高まる。例えば、商業流通するバナナの大半を占めるキャベンディッシュ種は、遺伝的多様性の欠如から病害に対して極めて脆弱だ。

最後の要因は、イノベーションの停滞だ。技術革新や品種改良が十分に進んでいない農産物は、環境変化への適応が難しい。例えばジャガイモでは、水使用量の削減や干ばつ耐性の向上に資する技術が存在するものの、収穫量とのトレードオフや社会的受容性の課題が普及の制約となっている。

強靭な供給網を作るための打ち手

これらの要因が重なり合うことで、供給リスクはより深刻化し、複雑化していく。この中で問われているのは、気候変動などを前提とした新たな食料供給のあり方だ。強靭な供給網を構築するには、リスクの構造に応じ、以下のような打ち手を複数組み合わせ実行することが求められる。

  • 調達先の組み合わせの見直し
    将来の需要やリスクを踏まえ、コスト・安定性・持続可能性のバランスを見直す
  • 調達の分散
    特定の国や地域への依存を見直し、複数の供給源や代替となる農産物を確保する
  • 生産基盤の強化
    耐性の高い種子や品種の開発、土壌改良や輪作などの持続可能な農法を導入する
  • 予測・可視化の高度化
    AIや衛星データを活用し、生育状況や気象変化を把握して供給リスクを早期に察知する
  • 物流と在庫の最適化
    近距離生産や低温、冷凍物流の整備により、供給途絶の影響を緩和する
  • 資金供給の仕組みの整備
    農家やサプライヤーが新技術や農法に投資できる環境を整える
  • パートナーシップの強化
    政府や企業、サプライヤーとの連携を強め、サプライチェーン全体でリスクに対応する

こうした取り組みを実効性あるものとするには、自社の調達網を可視化し、どの農産物をどの地域に依存しているのかを把握することが出発点となる。そのうえで、気候リスクと地政学リスクを踏まえ、優先的に対応すべき領域を特定し、農家やサプライヤーとの連携強化や長期契約などを通じて中長期の基盤を構築する必要がある。同時に、環境・市場・物流データを統合し、短期的な変動にも迅速に対応できる体制を整えることも重要だ。

食料供給をめぐる不確実性は今後も続くと見込まれる。したがって、強靭な供給網の構築は単なるリスク対応ではなく、安定調達と収益性を両立させるための経営戦略と位置づけるべきである。

原典: Building Resilience in Agrifood Supply Chains(2025年5月)

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