消滅危機言語の保存――シニア・パートナー森田の眼
国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、約8千ある世界の言語のうち、約2500言語が「消滅危機言語」に該当する。日本では八重山語やアイヌ語をはじめ八つが指定されている。言語が消える主な理由は、昔は限られた地域内での会話で十分だったが、生活圏の拡大に伴い、地域を越えたコミュニケーションが必要になったためである。この流れを止めることはもはや難しいだろう。
言語はコミュニケーションの媒介だけを担うわけではない。その地域における文化や信仰と根強く結びついている。八重山語には、同じ「運ぶ」を意味する言葉でも、頭の上に乗せて運ぶものを「カミル」、肩に乗せて運ぶものを「カタミル」と使い分けている。こうした味わい深い文化が消滅してしまうことへの怖さを感じる。
消滅危機言語を残すため、様々な努力がされてきた。アイヌ語の保存では、母語話者の会話を録音し、音声を文字に起こした。アイヌ語は文字を持たないため、別の言語で表記し、学習者のために辞典まで作った学者もいる。大変な苦労もあっただろうが、生成AI(人工知能)は言語保存に役立つかもしれないとふと考えた。
しかしながら、皮肉なことに生成AIは消滅危機言語に翻訳する際、学習データが少ないため翻訳の精度が低く、それが学習データを更に「汚染」させてしまう。こうした悪循環の先には、オリジナルの言語を誰も理解できなくなるという恐ろしい事態が待っている。前述の学者のように正しい学習データを作り続ける努力こそが不可欠だろう。
※本記事は、2025年10月24日付の物流ニッポン新聞に掲載されたコラム「ちょっといっぷく」に掲載されたものです。物流ニッポン新聞社の許可を得て転載しています。