気候変動に対し「今、一人ひとりに何ができるか」――大阪・関西万博「テーマウィーク」講演レポート
「誰が、どれだけ負担するのか」を超えて
参加者からの最初の質問は、「先進国の累積CO2排出とその責任について、どう考えるか」というものだった。石川氏によると、パリ協定では「共通だが差異ある責任(CBDR)」という考えが示され、先進国は途上国より大きな責任を持つが、それが10倍なのか5倍なのかは合意はされていない。同氏は、実際に誰が資金を出し、どう資金フローを作り、パリ協定の合意を現実の行動につなげられるのかは、「まだ解決していない課題であり、結局は私たち一人ひとりが責任を持たない限り、前には進まない」と語った。
見宮氏は、気候変動による人命の被害は途上国の方が甚大で、被害の質が異なること、さらに、助成金の確保は難しく、政府なのか民間なのかという問題を超え、結局は「誰が、どれだけ負担するのか」という国民全体の問題になると言う。
会場からも、途上国への支援につき「必要性は理解していても、国民的な合意形成が難しい。どうすればコンセンサスが得られるのか」という問題提起があった。見宮氏は、「知らなければ考えることもできない」、つまり世界に関心を持つことが第一歩であること、また、身近な製品を通して世界はつながっていることを知ってほしいと語った。さらに、アフリカ諸国との関係は「一方的な援助」ではなく国ごとの開発段階に応じて「パートナーシップ」を築き一緒に移行を進める姿勢が重要だと示した。
今、一人ひとりに何ができるか
「いくら拠出するか」「誰が責任を持つか」という議論に終わりはない。国や企業、消費者が足並みをそろえてエネルギートランジションに踏み出すには何が必要なのか。

ラグビー日本代表の赤白ボーダーのポロシャツ姿で登壇していた石川氏は、「私たちがスーツやネクタイを着て、強いエアコンの効いた部屋にいるのはおかしい」としたうえで、「今日・明日から自分たちにできる行動を取ること。私たち自身の行動や文化を変えることも、技術や金融の議論と同じくらい大切だ」と訴えた。
ビショップ氏は、人を動かすのは、具体的な利益や価値だと示す。先進国こそ気候変動によって失う資産が大きいが、人間にとって“失うリスク”は行動のきっかけにはなりにくい。保険に入るのを後回しにするのと同じだ。同氏は「具体的な利益や価値が見えれば人は動く。炭素削減だけでなく、生活やビジネスに利益をもたらすプログラム――『善をなして、同時に得もする』仕組みこそが最も成功する」と強調した。
行動を促すべきは、先進国の消費者だけではない。ハウスマン教授は、途上国に「排出せずに開発せよ」と言っても人々の心は動かない、と指摘する。「世界の脱炭素にはあなた方の資源、労働力、創造力が必要だ、と伝えれば、彼らも気候変動対策を自分たちの成長や需要拡大につながるものとして積極的に取り組むようになる」
モスは、「国も企業も個人も状況は異なるが、どの立場にもこの課題に貢献できるチャンスがあり、同時に恩恵を受ける可能性がある。生態系の健康、自らの健康、気候変動対策による投資や雇用の創出――すべてはつながっている」と締めくくった。
セッションの様子は、テーマウィーク公式ウェブサイトでアーカイブ配信を予定している。