エシカルな消費で持続可能な社会を――大阪・関西万博「テーマウィーク」講演レポート

エシカルを阻む構造と、広げるための試み

続く議論では「なぜエシカルな選択が広がりにくいのか」という構造的な問題にも焦点が当てられた。

ミニー氏は、現代の資本主義がもたらしている影響について、「人権や地球、生物多様性を犠牲にして利益を最大化するシステムが、過去40年間で定着してしまった」と指摘。経済成長を最優先する仕組みが続く限り、持続可能性との矛盾が解消されないという現状に警鐘を鳴らした。

オーガニックコットンの育種に長年取り組んできたサリー・フォックス氏も、自らの経験から資本主義の変質を指摘した。「昔、ファッションブランドの利益率は20%でビジネスは成り立っていた。今は60%、80%が当たり前。資本主義そのものよりも“そのあり方”に問題がある」と述べた。フォックス氏は1980年代後半、繊維に自然な色合いを持ち、染色を必要としないカラードコットン(有色綿)の美しさに魅了され、大規模な有機栽培に特化したカラードコットンの品種改良をいち早く手掛けた。現在も日本の紡績会社と一緒に普及に努めている。

オーガニックコットンの育種に長年取り組んできたサリー・フォックス氏

では、エシカルという価値観はどうすれば人々に届くのか?「エシカルという言葉には、どうしても堅苦しさがある。道徳や倫理と聞こえてしまうと、人は距離を取ってしまう」と生駒氏が問題提起した。

これに対し、鎌田氏は「人が行動を変えるには、体感が必要だ」と強調する。自ら綿を育てる「服の種」プロジェクトや、生産現場に足を運ぶスタディツアーを通して、服づくりの工程に触れることが「頭ではなく体で理解するエシカル」につながるという。「糸を紡ぐ現場を見て、生地を染めるための水と熱を知ると、報告書やデータでは届かない腹落ちが起きる」と鎌田氏は語った。

エシカルの伝え方を考える上では、生活者の実感と同時に、購買行動につながっているかという現実的な視点も欠かせない。ファッションブランドのエシカル評価システム「Good On You」共同創設者のゴードン・レヌーフ氏は、「消費者は、エシカルだから製品を買うのではない。これが欲しいという感情で選んでいる」と語る。「Good On You」は「人・地球・動物」の3つの観点からブランドを5段階で評価するオーストラリア発のエシカル評価システムで、日本ではそのデータを活用した日本版プラットフォーム「Shift C」として展開されている。

「8割の人はエシカルなものを買いたいと思っているし、エシカルではない買い物をすると後ろめたさを感じると答えている。このような消費者心理の二面性(「エシカルでありたい」という理想と、「欲しいから買う」という現実のギャップ)があるからこそ、エシカルだから、というコミュニケーションではなく、デザインや質が良いからといった価値を伝えていくことが大切だ」とレヌーフ氏は言う。

こうした消費者行動のギャップに対し、フォックス氏は消費者の変化に希望を見出す。「人は、正しくてオーセンティック(本物)なものにこそエネルギーを感じる」と述べ、背景にある物語を知った顧客が、共感をもって他者に伝えていく——そうした小さな連鎖が、エシカルな選択を広げていく力になるとした。

AI利用の環境負荷を考える視点も大切

そして話題は、AIとエシカルの関係にまで及んだ。鎌田氏は「AIは便利だが、その裏では莫大な電力が使われている」と指摘し、水の使用やCO2排出といった見えにくい環境負荷を認識した上で、使い方を考える必要があると述べた。フォックス氏も、「AIを一回使うごとにどれだけのエネルギーが消費されているかを数値化することで、より責任ある利用につながるのではないか」と提案した。

一般社団法人unisteps共同代表の鎌田安里紗氏

セッションの最後には、「50年後の地球はどうなっていてほしいか」という問いが投げかけられた。登壇者からは、自然との共生、資源の再生、社会的連帯、民主的な対話など、さまざまな視点での未来像が語られた。表現や焦点は異なりながらも、いずれも持続可能で多様な生命が共に生きられる社会を志向する内容となっていた。

テーマウィークの運営に携わったBCGの佐野徳彦は次のように述べる。「多様な視点と実践が交差した本セッションは、企業と産業がビジネスを通じて社会をどう変革するかを考える羅針盤となった。分岐点にある今、その姿勢が強く問われていると思う」。

各セッションの様子は、テーマウィーク公式ウェブサイトでアーカイブ配信を予定している。

記事一覧へ