経営企画の役割とは? 真の参謀となるための第一歩

「企画職」は日系企業に特有の職種だ。企業によっては「経営企画部」が経営の中枢とみなされることもある。しかし、本来求められる役割や仕事とのギャップに悩んでいる企画職の人々も多い。私たち戦略コンサルタントが日々業務で接するなかでも、そうした例によく出会う。ここでは、その悩みを少しでも解消するのに役立つと思われるビジネス上の基礎スキルに焦点を当てて解説したい。第1回は、その前提として「経営企画」の役割と背景を改めて考えてみる。
経営企画は、日系企業にしかない?
経営企画をはじめ、事業企画、研究開発企画、営業企画、人事企画など、日系企業には多くの「企画職」が存在している。しかし、その役割が明確でない企業も多く、下手をすれば「調整役」や、さまざまな業務を拾う「なんでも屋」になってしまっているケースもある。グローバル化が進んだ企業では、海外子会社や外国人のメンバーに「企画職」がどういうものかを説明するのが難しく、困っている、という声もよく耳にする。
実は、この「経営企画」という仕事は日系企業に特有のものである。その歴史的背景は経済産業省や経営学者が整理、分析しており1、詳細はそちらに譲るが、ここでも簡単にひもときたい。
欧米では、経営や事業の方針を決める際に重要な役割を果たす組織として、FP&A(Financial Planning & Analysis)という専門チームがあり、CFO(最高財務責任者)配下に配置することが一般的である。その中の「コントローラー」と呼ばれるプロ人材が各事業部門にはりつき、財務計画や業績分析を通じて戦略策定を支援する体制が整えられている。
1950年代、第二次世界大戦後に当時の通商産業省(現・経産省)はこのコントローラー制度を日本企業に導入しようと試みた。しかし、当時の日本企業の多くは銀行借入への依存度が高く、財務部門は対銀行業務に追われており、制度は定着しなかった。一方で、「経理部とは別に、経営の参謀本部が必要だ」という声が強まり、財務会計機能は持たないものの、全社の戦略立案や予算管理を担当する「疑似コントローラー」として経営企画が誕生した、という経緯である。
これによって、計画と方向付けを行う「経営企画」と、財務的な裏付けを検討する「財務経理」が並列する日本企業独自の機能が形成された。そしてその機能は、「◯◯企画」という名称とともに各事業部門に浸透していき、多くの日本企業に根付いているのである。

経営企画は、なんでも屋? 調整役?
出自こそ独特であるものの、経営企画に本来求められる役割は、経営の「参謀」であることだ。筆者は、参謀の仕事とは、大きく二つに整理できると考える。
①戦略の方向性を定め、リーダーの意思決定を促すこと
②リーダーの目となり耳となり、意思決定の方向に向けて各部門のチームを動かすこと
経営企画がこのような参謀としての価値貢献を十分に果たせていない場合に、結果として「なんでも屋」や「調整役」となってしまうのである。よくある例を二つ挙げたい。
- 経営層、特に社長が「ちょっとこれ、企画で調べてくれないか」と、検討事項を次々と経営企画に投げかける。経営企画は資料をまとめて報告に臨むが、「これじゃなくて、やっぱりこういう切り口で考えてくれ」と返される。その繰り返しで、いつの間にか“経営の御用聞き”のようになってしまっている。いわゆる「なんでも屋」の典型である。
- 部門横断の大型プロジェクトや、全社的な経営会議の事務局として経営企画のメンバーが配置されることは多い。だが、「営業部としてはこうしたい」「開発からはこの点が懸念」と、各部門の要望がぶつかる中で調整に奔走し、ひたすら根回しと会議の段取りに時間を割かれてしまう。「調整役」に陥ってしまった状態である。
このような状況に悩んでいる人は多いと思う。根本的には、それぞれの企業で曖昧になっている「経営企画」の使命や役割が再定義される必要がある。しかし、それを待つだけではいつまでたっても変化は期待できない。 であれば、企画職に就いている人々が、自らスキルを磨くことで、自分たちの業務を本来の「参謀」としての役割に近づけることが出来るのではないか。それが連載の趣旨である。
企画職に必要なスキルセット
僭越ながら、経営企画の使命は我々戦略コンサルタントの役割と性質が近いと考えている。BCGのコンサルタントが日々磨いているスキルは、そのまま企画職の業務にも活かせるはずだ。連載ではその要諦を共有していきたい。
- 物事を構造的にとらえ、論理的に説明するための基礎である「ロジカルシンキング」
- 意思決定を支えるための「数字を見る/見せる力」
- リーダーやステークホルダーの発言を正確に読み取る「聞く力」
- 検討内容を効果的に伝えることにこだわる「伝える力(資料作成力)」
- グローバルなビジネス環境で求められる「英語での伝える力」
- 最後に、意思決定をもとに組織を動かしていく「プロジェクトマネジメント」
企画職というと、斬新な発想や、豊富な知識と経験などが求められ、難易度の高い仕事というイメージを持つ人が多いかもしれない。それも一面事実ではあるが、一方で、こうした汎用的なスキルを身に付けることで、仕事の質を向上させ、本来の役割に近づくことも可能だと考えている。例えば、先ほどのよくある例に対しても
- 経営者が意図していることを正確に捉え、依頼の中から本質的な課題を絞り込み、優先順位を付けることができれば、経営に必要な情報と施策の提案が可能になる(「聞く力」「ロジカルシンキング」)
- 部門横断で進めるべき施策を、数字とその分析に基づいて語り、プロジェクトリーダーとして説得力を持って関係部門を動かすことができれば、会社にとって重要な大型プロジェクトを前進させられる(「数字を見せる力」「プロジェクトマネジメント」)
このような形で、多くのスキルを日々の業務に活かすことができる。企画職はもちろん多くのビジネスパーソンに役立つことを期待している。