生成AIの活用法を探る マーケティング責任者200人に調査

あらゆる産業を一変させる可能性をもつ生成AIは、マーケティングのあり方にも大きな影響を及ぼしそうだ。BCGが2023年6月に発表した調査レポートは、各国の最高マーケティング責任者(CMO)が生成AIの業務への導入を積極的に図っている状況を明らかにしている。なかでも焦点が当たっているのは「パーソナライゼーション」「インサイト創出」「コンテンツ作成」への活用だ。

70%がすでに生成AIを自社のマーケティングに導入

BCGは、アジア、欧州、北米における様々な業界の最高マーケティング責任者(CMO)200人以上を対象に、生成AIの活用状況に関する調査を実施した。

「すでに生成AIを自社のマーケティングに導入している」と回答したCMOは70%に上り、19%は「導入に向けたテストを行っている」と回答(図表1)。調査に回答したCMOの大多数が導入に着手していることになる。生成AIを導入していると答えたCMOが最も注力している活用領域は「パーソナライゼーション」(67%)、次いで「インサイト創出」(51%)、「コンテンツ作成」(49%)だった。

パーソナライゼーションについて、例えば一部の銀行では、生成AIを使用して顧客データを分析し、リスク許容度に合わせて一人ひとりに最適な投資情報を提供している。小売企業では顧客にさらなる購入を促すため、精度の高い「おすすめ」を個別に提案している。こうした取り組みは顧客満足度のみならず、顧客ロイヤルティの向上にもつながると考えられる。

また、ほとんどのCMOがすでに生成AIの前向きな効果を実感している。CMOの93%が業務を体系化するプロセスが改善されたと報告、91%が効率性の向上を報告した。BCGの初期的な分析によると、低コストで使いやすいという生成AIの特性によって、業務の生産性は30%向上する可能性がある。

84%が生成AIで新商品開発やビジネスモデルの立ち上げを計画

調査に回答したCMOの84%が、生成AIを活用した新商品開発や、新たなビジネスモデルの立ち上げを計画していると答えた(図表2)。うち50%は、新商品の開発と新規ビジネスモデルの両方を念頭に置いている。生成AIは市場参入戦略での活用も期待されていることが読み取れる。

規制の必要性も実感

生成AIに対する規制については、81%のCMOが必要性を感じており、77%は「今後2年以内に自社が規制の対象となる」と考えている。また、責任あるAIプログラムを自社で実施していると回答したCMOの割合は94%にのぼった。こうした企業は、AI関連の管理が不十分な場合に発生しがちなリスクの軽減に努めているようだ。リスクの例としては、社外秘データの漏洩や著作権侵害、バイアスのかかった出力、シャドーAI(注1)などがある。

競争優位性を獲得する4つの取り組みとは

生成AIは非常に速いスピードで便益をもたらすため、同じ業界の企業間でも、導入の有無による二極化が進むと考えられる。もはや企業は生成AIに対し「無策」ではいられない。BCGは、CMOが生成AIを活用して自社の競争優位性を獲得するための4つの取り組みを提示している。

①導入に向け、実験を開始する

経営層は、生成AIの可能性を直接体験し、その有用性を検討する必要がある。CMOは、自社にとって価値のあるアプリケーションの特定や、モデルの実験、革新的なユースケースの考案をすべく、自らマーケティングチームに働きかけることが求められる。

②革新的な価値創出を追求する

CMOには、生成AIを活用できるユースケースを特定し、優先順位を付け、それらを導入して自社の競争優位性の源泉とすることが求められる。例えば、AIモデルに知的財産(IP)について学習させ、独自データ(マーケティングパフォーマンス、消費者、ブランド、市場価値に関するデータ)を使って微調整することで、競合他社から差別化された価値創出が可能になる。

③全社的なモデルを確立する

自社のニーズに沿った生成AIモデルを構築し、企業全体に適したソリューションを確立することが重要である。これにより、CMOとマーケティングチームは、業務プロセスの効率改善や、顧客とのやりとりをパーソナライズすることが可能になり、型にはまらない新しい方法で顧客価値を創出できる。

④責任あるAIガイドラインを導入する

企業の「責任あるAI」への取り組みは、生成AIの倫理的・法的・技術的な側面に焦点を当てながら進める必要がある。

BCGのCMOを務めるパリ・オフィスのJessica Apothekerは「2000年代前半に見られた、消費者購買行動のデジタルへの移行は、マーケティングに大きな影響と変化をもたらした。しかし今日、生成AIの破壊的な力は、マーケターの役割とマーケティングの在り方そのものを変えようとしている」と指摘する。

注1: 企業が許可していないAIツールを従業員が使用すること

調査レポート: How CMOs Are Succeeding with Generative AI(2023年6月)