【生成AI実験】楽しい仕事が週10時間で離職率低下 社員の喜びを高める活用法

ボストン コンサルティング グループ(BCG)の調査で、人は楽しくない仕事が週に4時間を超えると離職を考え始めることがわかった。一方で、心から楽しめるタスクが10時間以上になると離職率が低下する。生成AIなどのテクノロジーを導入する際に生産性向上を目指すことが多いかもしれないが、従業員の満足度向上にも注力しながら進めるべきだ。調査からの知見をまとめた「仕事の充実感と人材の定着率を高める生成AI活用法」(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー)の一部を紹介する。

楽しくない仕事が週4時間を超えると、従業員は離職を検討する

仕事を楽しむことは非常に重要だ。BCGの以前の調査では、仕事を楽しんでいる従業員は転職を考える可能性が約50%低いことがわかっている。

仕事の楽しさを促進するには、無料の昼食やその他の従業員特典だけでは不十分だ。職場での喜びは仕事の内容と直結しており、仕事の楽しさを向上させる取り組みは、従業員が時間を費やす日常業務や日々のリズムに根差していることが不可欠である。

多くの企業が生成AIを含むテクノロジーを業務に取り入れようとしている今、このことは特に重要だ。組織は生産性向上のみを追求するのではなく、テクノロジーが従業員の仕事の喜びに及ぼす影響も考慮しなければならない。

BCGの調査によれば、従業員が日常業務の中で耐えられる労苦(楽しくない仕事)の量には限りがある。労苦が週に4時間を超えると、人々は離職を検討し始める。これは、仕事中のすべての瞬間に歓喜を覚える必要があるという意味ではない。従業員は毎週少なくとも10時間を心から楽しめるタスクに費やす場合、転職を考える可能性が低いことがわかっている。

これらを踏まえ、リーダーはどのように生成AIを活用すれば状況を改善できるのだろうか。

この問いに答えるために、8カ国におけるBCGの事務および人事業務の従事者522人を対象に調査を実施した。調査の一環として、参加者には日常業務を支援する一連の生成AIツールと、ツールの使い方を助けるトレーニング教材が提供された。

その実験結果を交えて、企業が生成AIの導入を促進し、仕事の喜びを高めるための実践的な方法を紹介する。

マネジャーのリーダーシップの重要性

生成AIの効果的な導入を真に促進するのは、マネジャーのリーダーシップだ。同じマネジャーの直属で働く人たちをチームと定義したとき、生成AI導入率には大きな差が見られた。上位4分の1のチームは、下位4分の1のチームよりも導入率が4.5倍高かった。また、導入率の高いチームは、パフォーマンスのレベルが高く、仕事に対する喜びも大きかった。

この違いはマネジャーの態度と行動による。

マネジャー自身がこのテクノロジーを使っている 上位4分の1のマネジャーは、下位4分の1に比べ、1カ月の間に生成AIの実験と使用に費やす時間が3.3倍多かった。

マネジャーがチームを気遣っている 自分のことをマネジャーが気にかけてくれていると答えた従業員は、そう思っていない人たちに比べ、生成AIの使用率が平均14%高かった。

マネジャーが信念を持ち、「なぜ」を説明している 実験の開始時、「自分の仕事には生成AIが必要だ」と信じる参加者とそうでない参加者の間では、使用率に66%の差が見られた。上位4分の1のマネジャーは、生成AIには仕事を向上させる力があるという信念を最も強く持っていた。

喜びと労苦の具体的な源泉の特定が鍵

調査に参加した事務従事者は、勤務時間の平均3分の1を、会議に向けて複数の関係者の予定を調整することに費やしている。グローバル企業で世界各地に拠点があるため、いくつものタイムゾーンにまたがる場合も多い。参加者によると、パフォーマンスを高めるうえでの最大の障害は、問い合わせへの返答を待っている時間だ。これが時間的プレッシャーを生み、よけいな労苦につながるという。

この問題に対処すべく、事務従事者が容易に予定を共有してスケジュール調整の面倒な要素を自動化できる生成AIとAIを活用した新たなカレンダーツールを導入した。参加者によると、ツールを使うことで週に1~2時間が節約された。加えて、タスクをより楽しめるようになった人は79%、パフォーマンスが向上した人は86%、ツールの使用を続けるつもりだと答えた人は92%に上った。

カレンダー調整の対象となるリーダーたちにも調査を実施した結果、提供される事務サポートが顕著に向上したと答えた人は約4分の1に上り、残りの人も満足していることが示された。

ただし、このようなツールの導入は慎重に進めることが重要だ。参加者の多くは、関係者が優先順位を決めて、スケジュールを最適化できるよう支援するのが楽しいと報告していた。ある参加者は「カレンダーの調整は、大規模なテトリスのようなもの。パズルを解いて、すべてのピースがはまる時は本当に楽しい」と述べた。

この実験では、生成AIツールを、労苦(他者の返答を待つこと)に対して使い、楽しい部分(会議を創造的に調整すること)には用いないようにした。リーダーはこのように、従業員の誇りと満足の源泉を損なうことなく生産性を高めるために、従業員と共同で生成AI導入に取り組む必要がある。

BCGのデボラ・ロビッチ、ロージー・サージェント、ジェイコブ・スミスによる「仕事の充実感と人材の定着率を高める生成AI活用法」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー)には、本調査で得られた知見が詳しくまとめられている。