AIで高度化された「スマートKPI」で評価指標のあり方が変わる 90%の企業で改善傾向

企業では一般的に、事業に関わるさまざまな目標の進捗を測る際、KPI(重要業績評価指標)をベンチマークとして使用する。データアナリティクスやAIの劇的な進歩を考えれば、KPIにそれを活用することで大きな改善が期待できることは想像に難くない。しかし、実際にAIを活用してKPIを改善している企業はそこまで多くないことが、BCGとMITスローン・マネジメント・レビュー誌の共同調査で明らかになった。

AIをKPI策定に活用している企業は3割程度

調査は世界100カ国25業界以上の企業・組織のマネジャー層約3,000名を対象に実施。回答者の60%が、意思決定の質を高めるためには自社のKPIを改善する必要があると考えていた。一方、AIを活用して業績評価指標をより合理的で柔軟で、予測を立てやすい形に改善している企業は約3分の1(34%)にとどまった(図表1)。

AIをKPI(重要業績評価指標)の策定に活用している企業に関する調査結果。活用している企業のうち90%がKPIの改善を報告している。

AIをKPIに活用している企業の90%が、KPIが改善されたことを認めている。調査では、新たなKPIの策定にAIを活用している企業は、そうでない企業と比較すると、さまざまなビジネス上のメリットを見込んでいることがわかった。従業員同士の協働の機会は4倍多く、将来のパフォーマンス予測の有効性は3倍、財務面でより大きな利益を得られる可能性は3倍、効率性が大きく改善する可能性は2倍高くなっている。

バイアスにとらわれない指標で事業が改善

デンマークの海運大手マースクは、世界中の港、輸送機関、倉庫のキャパシティや生産性の測定方法を、AIを活用して再検討した。そこで問題になるのは、パフォーマンスの定義である。「船舶やトラックに荷物をできるだけ早く積み込み、荷降ろしすること」なのか、あるいは「輸送機関が予定通りに確実な状態で出発できるよう、積み込みプロセスを管理すること」なのか、現場のマネジャーは判断を求められた。同社はAIを使ったモデルでその2つのアプローチを再現し、バリューチェーン全体にわたるそれぞれの有効性を評価した。

その結果、「積み込み装置の使用を減らしながら予定通り確実に出発すること」が最適と判断された。そうすることで、輸送手段の接続時(道路と鉄道など)に生じがちなボトルネックを事前に防げるという結論に至ったのである。マースクはAIを活用することで、「スピードを最大限に上げるべき」という人間のバイアスにとらわれず、正しいKPIを優先した。このアプローチによって、パフォーマンスの効率性や整合性が企業全体で改善した。その結果、確実な配送を実現し、顧客満足度も向上したのである。

イメージ画像

パフォーマンス測定の精度を上げる「スマートKPI」

調査結果と、大企業でAIに関わる取り組みを主導する経営幹部17名へのインタビューに基づくレポート「The Future of Strategic Measurement: Enhancing KPIs With AI」では、AIで高度化されたKPIを「スマートKPI」と呼び、単純なパフォーマンスの追跡にとどまっていた従来の指標を改善する3タイプのスマートKPIについて解説している。

①現状説明型KPI: 過去から現在までのデータを統合して、過去に何が起きたか、今何が起きているかについて洞察を提供する。
例: 製薬大手サノフィでは、すべての従業員が気軽に使える“snackable AI”ツールを活用して、異なるKPI同士がどのように影響しあっているのかを明らかにすることで、状況認識の精度を上げている。

②予測型KPI: 将来のパフォーマンスを予測し、信頼できる優れた指標を策定し、潜在的な結果も含めた見通しを提供する。人間が認識できないパターンを特定し、直感に反するさまざまなパターンもあわせて活用できるようにする。
例: ゼネラル・エレクトリック(GE)では、KPIの焦点を先行指標に合わせた。さらに、製品やサービスの導入数と注文数を比較することで、AIを活用して注文のパイプライン(受注までのプロセス)を分析している。

③規範型KPI: AIを活用してパフォーマンスを最適化する行動を推奨・提案する。
例: サノフィのスマートKPIは、サプライチェーン上の実績に基づいて販売活動や優先事項の調整を推奨することで、オペレーションと販売の整合を図っている。

BCGの北米におけるAIビジネスの共同リーダーであり、レポートの共著者であるShervin Kondabandehは「AIを用いた取り組みの大半は、企業のパフォーマンスの改善が目的となっている。しかしこのレポートは、企業がそもそもパフォーマンスをどのように定義し測定するのか、AIを使ってそれをどのように変革できるかに光を当てている。これは既存のKPIの改善にとどまらず、KPIの在り方自体を根本的に再考するということだ」と語る。

調査レポート: The Future of Strategic Measurement: Enhancing KPIs With AI(2024年2月)