先進都市ブラジル・クリチバ市をさらに持続可能に 都市計画をJICAプロジェクトで支援
国際協力機構(JICA)は、ブラジル南部にあるクリチバ市の都市計画を支援している。日本の政策やスマートシティに関する技術などを活用して、「高齢化社会」「災害管理」「データプラットフォーム」の三つのテーマを軸に、このほど政策提言をまとめた。2023年には京都市で京都スマートシティEXPOが開かれ、クリチバ市長らが来日して成果を報告した。
プロジェクトはJICAとクリチバ市都市計画研究所(IPPUC)が共同で実施、ボストン コンサルティング グループもJICAプロジェクトチームの一員として参画している。
クリチバ市はブラジル・サンパウロの南西400㌔にあるパラナ州の州都で、人口約200万人。1960年代から総合的な都市計画に基づく街づくりを進めており、持続可能な都市の実現に向けた取り組みとして、国連人間居住計画などで表彰されている。
都市計画の先進事例として世界的に評価が高いクリチバ市だが、近年は当初の想定を超える人口の増加や高齢化、気候変動による自然災害への懸念など新たな課題が持ち上がっている。こうした課題に対応するため、JICAは2022年3月から「持続可能な都市開発能力強化プロジェクト」として同研究所に協力してきた。
クリチバ市からは3回にわたって都市計画の専門家らが来日。各地の自治体や国土交通省などを視察して意見交換した。こうした視察や議論を経て、プロジェクトの成果として政策提言書をまとめた。
まず、高齢化社会に向けた対応としては、クリチバ市がすでに導入している市民IDシステムを活用し、教育、医療、交通機関などを利用しやすくしてデジタルによる市政サービスを拡充することを挙げた。これについては、群馬県前橋市が実施している「MaeMaas(マエマース)」などを参考した。マイナンバーと交通機関を連携させ、一つのシステムでエリア内の複数の交通機関の経路検索や予約などができ、個人の認証も行って市民割引なども受けられる仕組みだ。
また、高齢者に優しい環境を作るために、既存の公共スペースをリニューアルし、歩きやすく、医療・福祉サービスを利用しやすい空間をつくることを挙げた。さらに長期的には、各種サービスにアクセスしやすく、かつ手頃な値段の賃貸住宅を提供することを掲げた。これは、UR都市機構が整備している京都府八幡市の男山団地や、姫路市の例を参考にした。
災害管理では、自然の力を活用したインフラ構築、すなわち緑地帯の整備や透水性の舗装によって豪雨時の洪水を防いだり、屋上緑化でヒートアイランド現象を抑制したりするグリーンインフラを推進するための組織や仕組みを整備。資金調達のためにグリーンボンド(債券)の発行などを挙げた。また、浸水被害予測や安全な集合場所などを記したハザードマップの作成、防災についての学校での教育、低コストの河川水位センサーの導入などが提案された。
データプラットフォームについては、クリチバ市が持っているシステムを近隣自治体も使えるようにして、交通や河川管理など広域での検討が必要な問題の解決に役立てる。また、すでに活用している3Dマップの「ジオ・クリチバ」を進化させて、クリチバの街をコンピューター上の仮想空間に再現して都市計画に役立てることなどを目指すバーチャル・クリチバの開発も掲げた。これは兵庫県加古川市が3D画像を使って駅周辺の再開発について市民の理解を促している例などを参考にしている。
このプロジェクトでは、成果として取りまとめた政策提言をベースに、クリチバ市自身が「高齢化社会」「気候変動適応としての災害管理」「データ連携のためのプラットフォーム構築」の実現に向けた具体的な取り組みを進めていくとともに、日本の各自治体もクリチバ市の先進的かつ歴史ある取り組みを参考に、相互の学び合いを深めることで、今後に生かすことが確認された。
プロジェクトに参加したBCGの葉村 真樹パートナー&ディレクターは、「高齢化や自然災害の増加は今後、多くの都市で顕在化する課題。今回の提言や、クリチバ市と日本の先進的な取り組みは、世界各地の都市計画の参考になるはずだ。グローバルに知見を共有して社会課題の解決に取り組むことがこれからますます重要になると思う」と話している。