「AIが買う」時代へ――シニア・パートナー森田の眼
米オープンAIの対話型AI(人工知能)「ChatGPT」にコマース機能が搭載され、買い物の主語が「人」から「AI」に移る時代の幕が開けた。買いたいものと条件を伝えると、自律的に処理できるAIエージェントが比較し、決済まで自動的に進める。過去の買い物の傾向から好みを把握し、値引き交渉もしてくれる。もはやEC(電子商取引)サイトを人間が訪れる意味は薄れている。
前提が変われば、ビジネスモデルも変わる。小売りにとっては、品ぞろえや利便性といったこれまでの提供価値が意味をなさなくなり、究極的には商品を供給するだけになる。もしくは、自らが顧客に選ばれるAIエージェントになるしかない。大手ECやマーケットプレイスは、既にその方向を目指している。
また、広告市場は著しく侵食されるだろう。消費者に良いブランドイメージを植え付けたとしても、AIエージェントが「門番」となり届かなくなるからだ。メーカーがやるべきことは、AIに好まれるように仕様や在庫、レビューを充実させるか、特定の領域に強いAIエージェントとして消費者に直接モノを販売するか、の二択になる。
結局、EC市場はどうなってしまうのだろうか。まず、顧客ニーズに徹底的に寄り添えるAIエージェントが支配的な地位を得るかもしれない。他に残るとすれば、それとは全く異なる「買い物体験」を提供できるものだろう。中国発ECのように安価なノンブランド商品を並べ、消費者が暇つぶしに見て衝動買いするようなものが一例である。
※本記事は、2025年11月25日付の物流ニッポン新聞に掲載されたコラム「ちょっといっぷく」に掲載されたものです。物流ニッポン新聞社の許可を得て転載しています。