AIは心のケアを担えるか――シニア・パートナー森田の眼

生成AI(人工知能)は人間の心のケアを担うことができるのか――。近年、AIによるチャット型のセラピーが急速に広がり、精神的な悩みを抱える人々にとって選択肢の一つとなりつつある。AIは膨大な心理学的知見にアクセスし、利用者に寄り添った回答を返すことができる。メンタルヘルス分野にも忍び寄る、深刻な人手不足への打開策としても期待が集まる。

しかし、大きなリスクを内包しているのも事実だ。AIは誤ったアドバイスを与えたり、重大な危機を見逃したりする可能性がある。また、多くのチャットボットは利用者のケアに対する効果そのものよりも「会話を続けさせること」を目的として設計されているため、過度な依存を助長し、根本的な解決にはつながらない危険性もある。

一方、セラピストがAIを補助的に活用するメリットも大きい。セッション前にAIで相手の会話の傾向を分析したり、見落としがちなパターンを抽出したりすることで、ケアの精度と効率を高められるだろう。セラピストにとってAIは代替者ではなく、専門性を補完するアシスタントとして用いる方が現実的かもしれない。

ただ、この共存にも課題が残る。プライバシーやセキュリティー面でのリスクはもちろんだが、それ以上に、患者が「自分との対話の背後にAIが介在している」と知った時、セラピストとの信頼関係が揺らぐかもしれない。更に、AIに頼りすぎると、セラピストの問題を発見する視点や判断力が育たなくなる可能性もあり、こうした本質的な課題に目を向けることが必要だ。

※本記事は、2025年9月23日付の物流ニッポン新聞に掲載されたコラム「ちょっといっぷく」に掲載されたものです。物流ニッポン新聞社の許可を得て転載しています。

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