エシカルな消費で持続可能な社会を――大阪・関西万博「テーマウィーク」講演レポート

大阪市の夢洲(ゆめしま)で開催中の日本国際博覧会(大阪・関西万博)。ボストン コンサルティング グループ(BCG)は、社会課題の解決に向けた対話の場「テーマウィーク」に全体協賛として参画している。会期中には8つのテーマが設定され、専門家による多様なトークセッションが開催されている。
6月16日、第3弾の「食と暮らしの未来」ウィークの一環として、「エシカルリビングの促進」をテーマにしたセッションが万博会場内で行われた。エシカルファッションやサステナビリティを軸に国内外で活動する実践者6人が登壇。エシカルな社会は実現できるのか?社会、制度、経済、文化などのさまざまな側面から意見が交わされた。
「今、地球はエシカルな方向に進んでいるのか?」
エシカル(ethical)は直訳すれば「倫理的」だが、実際にはその内容は広範囲にわたる。今回のセッションのモデレーター、生駒芳子さんは女性ファッション誌『マリ・クレール』の元編集長で日本エシカル推進協議会の会長を務める。生駒氏によると、協議会では専門家による議論を通じて「エシカル基準」を策定しており、その項目は以下の8つに分類されている。
- 自然環境を守っている
- 人権を尊重している
- 消費者を尊重している
- 動物の福祉・権利を守っている
- 製品・サービスの情報開示をしている
- 事業を行っている地域社会に配慮・貢献している
- 適正な経営を行っている
- サプライヤーやステークホルダーと積極的に協働している
これらの項目は、取り組みの優劣を評価するためのものではなく、それぞれの実践者が自身の立ち位置を確認しながら持続可能な方向へ進むための指標として活用されている。こうしたエシカルの枠組みを前提としながら、セッションでは現代社会の方向性そのものを問う議論が展開された。
「今、地球はエシカルな方向に進んでいるのか?」。生駒氏のこの問いかけに対し、迷うことなく「そうは思わない」と即答したのは、フェアトレード(発展途上国との公正な取引)のブランドを展開してきたピープルツリー創設者、サフィア・ミニー氏。ミニー氏は30年以上フェアトレードに取り組み、2004年に世界経済フォーラム(シュワブ財団)によって「世界で最も傑出した社会企業家」の一人に選ばれた。温暖化による気候危機が現実のものとなり、企業、政府、国際機関、そして市民社会にいたるまで、もはや「行動するしかない」局面にあると述べたうえで、「50年後、100年後に事業や暮らしが持続可能であり続けるかどうかは、今の意思決定にかかっている」と強調した。

この現実について、生駒氏は「今は『ティッピングポイント(分岐点)』にある」と述べ、危機の中にこそ希望と連帯の可能性があると語った。「このイベントのように一人ひとりがどう思うかを共有する場を持つこと自体に意味がある」として、対話によって意思が揃う場の必要性に触れた。
一般社団法人unisteps共同代表の鎌田安里紗氏も「現状がエシカルに進んでいるとは言いがたい」としながら、「この問いを持ち続けることが出発点になる」と答えた。unistepsは、持続可能なファッションについて学ぶ「サステナブルファッション講座」の開催や、ファッション・繊維企業でつくる「ジャパンサステナブルファッションアライアンス」の事務局を担っている。
「戦争や気候政策の後退といった厳しい現実を踏まえると、エシカルに進んでいるとは言い切れない。ただ、今日のように、それぞれの感覚や葛藤を持ち寄って話し合える場こそがとても重要だと感じる」。
なぜエシカルな選択が広がりにくいのか?