【更新】BCG、環境省の昼の余剰電力需要創出に向けた実証事業を支援

ディマンド・リスポンス(DR)を活用した昼の電力利用へのシフトの可能性と消費者便益を検証

経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)は、環境省から令和6年度「デコ活」(脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動)[注1]推進事業等委託業務を受託したことを受け、再生可能エネルギー導入の拡大により生じる昼の余剰電力を有効活用し、脱炭素につながるライフスタイル転換を促進するための実証事業を支援しました。本実証事業はNature株式会社、関西電力株式会社、株式会社Looopが参画し、環境省と共同で実施しました。

本実証は、IoT技術や市場連動型電気料金プランを活用し、消費者の行動変容や機器制御を行うことで昼間の電力需要を創出することを目的としています。本実証の結果を踏まえ、今後のディマンド・リスポンス(DR)の社会実装に向けた検討を進めていきます。

■ 本取り組みの背景(環境省報道発表より抜粋)

近年、再エネの導入拡大により出力制御エリアは全国に拡大し、電力需要の減少等の影響により、足元の出力制御量は増加傾向にあります。この状況を改善する方策の一つとしては、昼間の電力需要を創出することが効果的です。このため、デコ活では、昼の余剰電力を有効活用する新しい暮らしのあり方の絵姿を描いた上で、昼の電力利用への行動変容と、それによる消費者の利益・利便性を訴求していきます。

昼の電力創出イラスト                            出所:環境省報道発表「昼の余剰電力を有効活用する新しい暮らしのあり方の絵姿」

■ 実証事業の概要

本実証事業においては、昼間の電力需要の創出に向けて、ディマンド・リスポンス(Demand Response:DR、消費者が賢く電力使用量を制御することで電力需要パターンを変化させること)のうち、「上げDR[注2]」を促す取り組みを実施しました。本実証は、「機器制御型DR(IoT機器を活用した自動制御)」と「行動変容型DR(消費者が自ら制御)」の2つの手法を組み合わせ、昼間の電力利用のシフトに関する効果を検証しました。
具体的には、IoT機器を活用して対象機器(蓄電池、エコキュート、洗濯乾燥機、浴室乾燥機、食洗器、EV等)を自動制御する「機器制御型」のDR、及び、市場連動型電気料金プランを活用した、各消費者が自ら対象機器を手動で制御する「行動変容型」のDRを通じて、昼の電力利用へのシフトに向けた効果や消費者の利益について検証しました。

■実証事業の内容および結果の概要 ※2025年3月18日更新

● Nature株式会社、関西電力株式会社

実施内容 実施グループを機器制御グループ(複数機器制御・単独機器制御いずれも含む)と行動変容グループへ区分し、いずれも再エネ出力制御が発生する可能性が高い、ないしは電力市場での電力量価格がほか時間帯と比して低い時間帯において、上げDR実施指令を行う
実証期間 2024年10月21日(月)~ 同年11月30日(土)
サンプル数 蓄電池・エコキュート・EVなどを所有する家庭を対象
HEMS機器等で需要家機器の自動制御を行うグループ(以下、機器制御グループ)と、需要家自身で手動制御するグループ(以下行動変容グループ)に大別
機器制御グループ:88件
行動変容グループ:356件
対象地域 関西電力管区
制御対象機器 蓄電池・エコキュート・EVなど
主な検証内容 電力需要を昼にシフトすることによる消費者便益の検証
消費者視点での、最適な電力利用を目的とした行動変容型ディマンド・レスポンス(DR)や機器制御型DRのあり方の検証

<結果の概要>
HEMS を活用した住宅用エネルギー機器(蓄電池・エコキュート・EV)の自動制御が手動制御と比較して高い上げDRの効果を持つことが確認された。自動制御により平均0.759kWh/回の電力需要創出が達成され、手動制御(0.437kWh/回)を大きく上回った。
また、自動制御による経済便益が最も大きくなる場合において、実証期間中に世帯あたり最大約2,400円程度の消費者便益を得られる可能性[注3]があることが確認された。
一方、機器登録設定の煩雑さや、電力会社提供の報酬とユーザーの期待値の乖離など、社会実装に向けた課題も明らかになった。

 

●  株式会社Looop

実証① 市場連動型電気料金プランを活用した行動変容型DRの実証

実施内容 市場連動型電気料金プランの契約者に対し、実証期間において電気料金を0円で提供する群及び、ネガティブプライスで提供する群を用意し行動変容型DRを促す
実証期間 ・2024年11⽉20⽇(水)12時00分~12時59分
・2024年11⽉24⽇(⽇)12時00分~12時59分
・2025年1⽉8⽇(水)12時00分~12時59分
・2025年1⽉12⽇(⽇)12時00分~12時59分
サンプル数 ・電気料金0円提供の群:約6,000世帯
・ネガティブプライス提供の群:約6,000世帯
対象地域  東京電力管区、中部電力管区、関西電力管区
制御対象機器 (限定無し)
主な検証内容  1. 実施時間帯の上げDR量
2. 実施時間帯以外の下げDR量
3. キャンペーン中の上げDRによる電気代削減効果
4. 参加者の行動変容への意識変化(アンケートにより測定)

<結果の概要>
実証実施時間中、両方の群で統計的に有意な上げDR効果が確認された。秋の平均上げDR量は両方の群において0.04kWh/30分~0.51kWh/30分、冬では0.04kWh/30分~0.48kWh/30分の範囲で変動することが確認された。
ネガティブプライス提供の群の上げDR量は電気料金0円提供の群(無料群)と大きな差は認められなかった。これより、ネガティブプライスの理解度が低いことや、上げDR行動の限界がある可能性が示唆される。

DRに使用した家電については、冷暖房機器、洗濯乾燥機、調理器具の回答が多く得られた。一方、DR実施できなかった理由として「昼間は仕事で外出しているため」、「使用可能な家電が限られる」が多く挙げられた。
環境意識の高い層ほど上げDR量が多い傾向が確認され、環境意識の高さによってDRに積極的に取り組んだことに起因する可能性がある。一方、環境意識の高い層はEVやエコキュートなどのエネルギーマネージメントが可能な機器を保有している割合が高く、それによってDRへの取り組みやすさが向上している可能性も考えられる。

実証② 家庭用蓄電池の市場連動制御による機器制御型DRの実証

実施内容 家庭用蓄電池の導入者に対し、実証期間において市場連動型の充放電制御を行う
実証期間 2025年2月3日(月)~2月17日(月)の2週間
サンプル数 40世帯
対象地域 東京電力管区、中部電力管区、関西電力管区、九州電力管区
制御対象機器 蓄電池
主な検証内容 1.家庭用蓄電池の市場連動制御による使用電力量(系統買電量)の変化
2.家庭用蓄電池の市場連動制御による電気代の変化
3.蓄電池DR普及に係る各種課題の洗い出し -安定通信状況等
4.家庭用蓄電池の市場連動制御による意識の変化(アンケート及び、インタビューなどにより測定)

<結果の概要>
実証期間及び対象者においては、太陽光・市場連動ハイブリッド制御の蓄電池の導入により、通常の太陽光自家消費モード(グリーンモード)の蓄電池を導入した場合と比べ、月平均400円程度の追加的な電気代削減が可能であることが示された。
アンケート等において、市場連動制御に対する不安として、「自分で制御できない」、「経済メリットが分からない」、「停電時の残量不足」が多く挙げられた。対象者自身での操作や選択を可能にすること、アプリ等での経済メリットの提示、一定の蓄電池残量を残す等の方法が有効であると考えられる。
市場連動制御型の蓄電池の導入により、対象者のうち73%において、余剰電力をより有効活用するような意識や家電の使い方の変化があった旨の回答が得られた。

実証③ 指ロボットを用いた家電の市場連動制御による機器制御型DRの実証

実施内容 指ロボット(遠隔で家電のボタンを押せるIOT機器)を通じ、実証期間中、家電を市場価格が安い時間帯に稼働させる制御を実施する
実証期間 2025年1月8日(水)~1月29日(水)の3週間
サンプル数 下記の機器ごとに各5世帯
対象地域 東京電力管区
制御対象機器 洗濯乾燥機、食器洗い乾燥機、浴室乾燥機
主な検証内容 1. 指ロボット導入による電気代削減効果
2. 指ロボット導入による使用電力量の変化
3. 指ロボット導入によるお客様の受容度(インタビューにより測定)
4. 指ロボットによる家電制御に関する定性課題

<結果の概要>
1回当たりの電気代削減額については対象者により異なり、食器洗い乾燥機は0.46円~1.27円/回、浴室乾燥機は1.77円~3.29円/回、洗濯乾燥機は0.55円~6.78円/回で変動することが確認された。
一方、対象者が希望する電気代削減効果はインタビュー結果によれば月平均551円であり、実証結果と大きな乖離が見られた。電気代削減額が少額でも、家電の遠隔制御等の利便性向上があれば、サービス受容度が向上する可能性が示唆される。
指ロボットの取付けは、浴室乾燥機、食器洗い乾燥機、洗濯乾燥機の順に難易度が高くなることが確認された。洗濯乾燥機は指ロボットを3つ設置する必要があるケースもあり、指ロボットを使用せずに遠隔制御が可能な仕組みの構築が必要であると考えられる。
なお、家電の動作時間を料金単価が安い時間にシフトさせることでの洗濯物の生乾きや食器への汚れ残りは、本実証では特に発生しなかった。

■今後の展開

BCGは、本実証の結果を踏まえ、消費者にとって昼間の電力利用がもたらす便益を明確にし、より多くの家庭や事業者が再エネの余剰電力を活用できる仕組みの普及を支援していきます。これにより、脱炭素社会の実現に向けたエネルギーの有効活用を促進し、2050年ネットゼロおよび2030年度の温室効果ガス削減目標の達成に貢献していきます。

■参考資料

環境省報道発表
昼の再エネ余剰電力を活用した便利・快適・お得な暮らしの実現に向けて 「デコ活」における実証事業の結果について~ディマンド・リスポンス(DR)を活用した昼の電力利用へのシフトの可能性と消費者便益を検証~」(2025年3月18日)

[注1]「デコ活」とは、「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の愛称であり、二酸化炭素 (CO₂)を減らす(DE)脱炭素(Decarbonization)と、環境に良いエコ(Eco)を含む”デコ”と活動・生活を組み合わせた新しい言葉
https://ondankataisaku.env.go.jp/decokatsu/

デコ活ロゴ 02

[注2] 上げDRとは、DR発動により電気の需用量を増やすこと。例えば、再エネの過剰出力分の需要機器を稼働して消費したり、蓄電池やEVへの充電により吸収したりすることを指す

[注3] 自動制御を実施したケースの実証期間中の上げDRの最大値である 8.06kWh/回において、関西電力の従量電灯Aの3段目料金28.59円から、JEPX最安値0.01円及び再生可能エネルギー賦課金3.49円を差し引いた25.09円を、経済便益として得られる単価と仮定して算定

※本プレスリリースの初版は2024年10月31日に配信されました

■ 担当者

森原 誠

マネージング・ディレクター & パートナー

BCGパブリックセクターグループ、気候変動・サステナビリティグループのコアメンバー。
東京大学法学部卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校法科大学院修士(LL.M.)。総務省を経てBCGに入社。その後、青山社中株式会社を経て、BCGに再入社。BCGシカゴ・オフィスに勤務した経験もある。

伊原 彩乃

プリンシパル

BCG気候変動・サステナビリティグループ、パブリックセクターグループ、マーケティング・営業・プライシンググループのコアメンバー。カーボンニュートラル・気候変動領域のエキスパート。
東京大学工学部卒業。BCGに入社後、コンサルティングや人材育成、マーケティング・広報に従事。その後BCGに再入社。

■ 本件に関するお問い合わせ

ボストン コンサルティング グループ マーケティング 中崎・中林・河西
Tel: 03-6387-7000 / Fax: 03-6387-0333 / Mail: press.relations@bcg.com