世界のマーケティング責任者の71%が、生成AIに年間1000万ドル超を投資 BCG調査

世界最大の広告祭「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2025」が6月20日までフランス南部カンヌで開催されている。ボストン コンサルティング グループはこれに合わせ、アジア、欧州、北米におけるさまざまな業界の最高マーケティング責任者(CMO) 200人を対象に生成AIに関する調査を行い、レポート「How CMOs Are Scaling GenAI in Turbulent Times」を発表した。レポートの発表は2023年、2024年に続いて3回目。
CMOの83%が生成AIの業務への影響を楽観視
今回の調査では、マクロ経済の不確実性が続く中でも、CMOの71%が今後3年間、生成AIに年間1,000万ドル超を投資する計画であることがわかった。昨年の57%から大幅に増加した。また、生成AIへの意識を聞いたところ、業務に与える影響について「楽観的である」と答えたCMOの割合は83%に上り、2023年の74%から増加した(図表1)。「不安・懸念」や「拒絶感」を示すCMOの割合は急速に低下している。

生成AIが最も大きな変革をもたらしたと感じる分野を聞いたところ、3分の1超のCMOが「顧客体験」や「コンテンツの質・量」が向上したことを実感していた(図表2)。「生産性の向上」や「人手を必要とする作業の減少」を挙げるCMOは昨年より減少したものの、60%のCMOが、注力分野において生成AIが5%以上の収益増をもたらすと見込んでいる。

動画生成、パーソナライゼーション、AIエージェントが重点領域
CMOは、さまざまな領域で生成AIの試験導入から適用規模拡大を進めている(図表3)。特に、今後はコンテンツ作成(特に動画や没入型メディア)、パーソナライゼーション、AIエージェントの試験導入に重点的な投資が行われる見通しだ。主な内容は次の通り。
- コンテンツ作成における新しい可能性として動画生成に期待がかかっており、CMOの30%が今後の重点領域に挙げている
- パーソナライゼーションに向けて予測分析が依然として重要だ。多くのCMOが、おすすめ商品の表示、最適なタイミングでの顧客へのアプローチ、次に届けるべきコンテンツの選定などですでに生成AIを本格的に活用している。今後は、個別最適化された特典の提供(パーソナライズド・オファー)、顧客の離脱予測、対象顧客層の最適化といったより高度な取り組みが試験導入段階に進むとみられる。パーソナライズド・オファーの適用を拡大している先進企業は、画一化されたオファーと比べ3倍の効果をあげている
- AIエージェントはマーケティングのワークフローを再構築しており、特にB2B(企業向けビジネス)企業で顕著。B2B企業のCMOの3分の1、B2C(消費者向けビジネス)企業のCMOの4分の1近くが、AIエージェントを優先投資領域にあげている

マーケティングROI測定は優先度低、人材育成への投資が継続
デジタルチャネルでの顧客体験向上に対する資金配分について聞いたところ、生成AIをマーケティングROI(投資対効果)の測定・評価に生成AIを活用することは、CMOにとって優先度が低いことがわかった。多くのCMOが、過去に構築してきたファーストパーティデータ(自社で直接収集した顧客データ)の利活用を引き続き重視しており、ROIの測定に十分な投資をしてマーケティング施策と売上のつながりを可視化することはできていないのが現状だ。

一方で、人材育成への投資は継続されている。生成AIを活用できる人材が不足する中、多くの企業が外部からの採用に頼るのではなく、社内でのハッカソン(短期間で集中的にサービスやプロダクトを開発するイベント)や外部の専門家などを招いたデモンストレーションを通じて、自社チームのスキルアップを図っている。
BCGでマーケティング・営業・プライシンググループのグローバルリーダーを務めるニューヨーク・オフィスのマネージング・ディレクター&シニア・パートナー、ローレン・ウィーナーは次のようにコメントしている。「生成AIはいま、マーケティングチームの業務の中核に組み込まれている。競争優位性を構築しつつあるCMOは、テクノロジーの適用規模を拡大するだけでなく、それを使いこなす人材を重視している。ツールと人材の両方に投資するCMOこそが、マーケティングの常識を書き換えることができるだろう」
調査レポート:「How CMOs Are Scaling GenAI in Turbulent Times」(2025年6月)