日本のゲーマーは世界と比べ支払い意欲が低い BCG調査

ゲーム業界は、これまで急成長を遂げてきたが、近年その勢いに陰りが見え始めている。BCGの最新調査によると、2021年以降の年平均成長率(CAGR)はわずか1%に低下し、開発コストの上昇も業界の重荷となっている。しかし、市場が停滞する一方で、新たな成長の可能性も見えてきた。ゲーム市場の現状を踏まえつつ、これからの成長に向けたヒントを探っていく。

ゲーム市場は急成長から緩やかな成長へ、2028年には2660億ドル規模に

2017年から2021年の間に、業界全体の収益は1,310億ドルから2,110億ドルへと拡大し、CAGRは13%となった。しかし、2021年以降の成長ペースは著しく鈍化。2021年から2023年のCAGRは1%にとどまった。この変化の背景には、金利の上昇に加え、コロナ禍による巣ごもり需要の収束、そして期待を集めたゲームの不振があると分析されている。今後は一桁台の成長が続く見通しで(2024年~2028年までのCAGRは5%と予測)、2024年には収益が2,210億ドル、2028年には2,660億ドルになると予測している。

ゲーム市場の規模

ゲーム市場をタイプ別に見ると、モバイルゲームの成長(アプリ内課金など)が、PCゲームやコンソールを上回ると予測される。

成長の鈍化に加え、業界が直面しているもう一つの重要な課題は、ゲーム開発コストの上昇だ。特にPCおよびコンソール向けのAAAタイトル(高予算で開発される大型作品)の制作費が増加しており、収益の伸びを上回るペースで膨らんでいる。2017年から2022年にかけてのAAAタイトルの開発費CAGRは6%であったが、2022年から2028年にかけては8%に加速する見通しだ。これは、ライブサービス型ゲーム[注1]の台頭により、ハイクオリティなゲーム開発への要求が高まり、より高度な技術や多くの人材を必要とするプロジェクトが増えていることが要因とされている。

ゲームに支払ってもいい金額は中国が世界トップ、日本は低め

ゲーム市場の成長には、利用者の「支払いに対する前向きな姿勢」が欠かせない。最新の調査では、日本を含む8カ国の消費者を対象に支払い意欲を比較した結果、国によっては大きな差があり、中でも中国のプレイヤーが最も高額を支払ってもよいと考えていることが明らかになった。

国別のゲームへの支払い意思額

日本のゲーマーの支払い意思額は、世界平均よりも少ないことが分かった。具体的には、1人用ゲーム[注2]に平均45ドル、ライブサービス型ゲームに平均44ドルを支払ってもよいと考えており、いずれも世界平均(53ドル、54ドル)を下回る。
一方で、中国のプレイヤーは1人用ゲームに対し、平均82ドルまで支払う意思があると回答。これは調査対象国の中で最も高い水準であり、世界的にもトップクラスの支払い意思を示している。興味深いのは、中国市場で人気のあるAAAタイトルの実際の販売価格だ。多くの作品が37〜45ドルで提供されており、例えば、西遊記を題材にした人気アクションゲーム 『Black Myth: Wukong』 もこの価格帯に含まれる。プレイヤーの支払い意思額と比較すると、価格設定の見直しや熱心なユーザーへの追加の課金システムの導入など、新たな価格戦略を模索する余地がある。

成長のきっかけは、新世代ゲーマーの台頭

このようにゲーム市場はかつてのような急成長は望めないが、一方で緩やかで着実な成長を支える要因もある。まず、最大の強みは、世代を超えて楽しめることだ。2025年にクライムアクションゲームの6作目 『グランド・セフト・オート6』や、任天堂の新ハードウェア『スイッチ2』の発売が見込まれ、市場を活性化させる要因と考えられている。さらに長期的な視点では、人口動態の変化が市場成長の推進要因となる。家庭用ゲーム機が初めて登場した世代が高齢化し、次世代の退職者となることで、ゲームに親しんだシニア層のプレイヤーが増えると予想される。一方、若年層のゲーム開始年齢も低下傾向にあり、現在の15歳の多くは7歳からゲームを始めている。30年前は13歳が一般的だったが、今ではより幼い段階からゲームに親しむようになっている。このような動きが、ゲーム市場の持続的な拡大につながると考えられる。映画『スーパーマリオブラザーズ』の大ヒットや、親子で楽しめる『マインクラフト』の成功が示すように、ゲームの魅力は世代を超えて広がり続けている。

ゲーム業界の成長機会を探る多角的アプローチ

ゲーム業界は今、新しい成長の段階に入ろうとしている。プレイヤーの広がり、技術の進化、遊び方の変化、どれもがこれからの可能性を示している。そうした流れの中で、成長のヒントになりそうないくつかのポイントを紹介したい。


● AIと自動化で開発を効率化する

生成AIは、ステージ構成やセリフづくりなどの素材制作に加え、動作確認や翻訳といった反復作業の自動化にも活用されている。現在は、大手よりも小規模な制作会社のほうが導入に積極的だ。多くの開発者は、こうした技術によって生まれる余力を、より没入感があり、個性の際立つゲームづくりに活かそうとしている。

● どの端末でも遊べる環境を整える

デバイスに依存しないゲーム体験の提供は、今後の成長を支える要素の一つとなる。全世界で人気のバトルロイヤルゲーム 『フォートナイト』や3Dブロックで自分の好きな仮想世界を作れるゲーム 『マインクラフト』などは、異なる機器でも同じゲームを楽しめる仕組みが、多くのプレイヤーに支持されている。

昔の名作を活用する

プレイヤーの間で過去の名作への関心が高まっている。懐かしいゲームの復刻版が発売されると、多くの人が手に取る。しかし、ただ昔のゲームをそのまま出すだけでは成長は見込めない。過去の人気作品に手を加え、新しい映像技術やオンラインマルチプレイヤー機能[注3]を加えてアップデートすることが、成功のカギになる。

新しいプレイヤー層を取り込む

ゲームを遊ぶ人は年々増えているが、まだまだ広がる余地がある。特に、高齢者や小さな子ども向けのゲームは今後大きな可能性を持っている。最近では、家族で一緒に楽しめるゲームが人気を集めており、『マインクラフト』や、ユーザーが自分でゲームを作成できる『Roblox』のような、世代を超えて遊べるゲームが成功している。

安定した二桁成長はもはや前提ではなくなり、大きな挑戦には、それに応じたリスクが伴うようになっている。しかし、創造的で、迅速に行動できる企業には、依然として成功のチャンスがあるだろう。

[注1] 複数人でのプレーを基本とし、継続的に新コンテンツが追加されるオンライン中心のゲーム
[注2] 1人でストーリーや世界観を楽しむオフライン中心のゲーム
[注3] インターネットを通じて、他のプレイヤーと一緒にリアルタイムでゲームを遊べる仕組み

調査レポート:「Leveling Up for the New Reality of Game Development」(2024年12月)