米国の対カナダ・メキシコ・中国関税の影響 貿易の「ニューノーマル」に備える

米国が発表した対カナダ・メキシコ関税措置は、30年間続いてきた北米における米国の貿易政策の大きな転換点となりうる。企業リーダーは、リスクを軽減し、変化する貿易環境に適応するため、今すぐ行動を起こす必要がある。

2025年2月1日、米国のドナルド・トランプ大統領は、メキシコからのすべての輸入品と、カナダからのエネルギー・重要鉱物を除く輸入品に対して25%の関税を課す大統領令に署名した。カナダからのエネルギー・重要鉱物の輸入品については10%の関税が適用される。また、中国からの輸入品には、これまでの引き上げ分に加え、さらに10%の追加関税を課すよう命じた。

メキシコとカナダに対する関税措置は、米国が両国と国境警備などの課題について交渉を進めるため、1カ月間延期された。一方で、中国からの輸入品に対する10%の追加関税はすでに発効している。

新たな関税措置が与える影響

もし今回発表された関税引き上げが実施されれば、その規模と範囲は広く、経済・ビジネスに甚大な影響を及ぼし、今後の貿易のあり方を大きく変えるだろう。新たな関税は米国の全輸入品の44%、金額にして1.4兆ドル規模の取引に影響を与える。あらゆる主要な輸入品目が対象となるため、企業や消費者にとってコスト上昇と不確実性の増大を招くことになる。

ボストン コンサルティング グループ(BCG)で国際貿易を専門とするマイケル・マカドゥーは「これほど広範囲の製品に、これほど高い関税が、これほど大規模な貿易経済圏から課されたことはこれまでなかった」と述べている。

BCGは、今回のカナダ、メキシコ、中国に対する新たな関税が全面的に実施された場合、次のような影響が生じると分析している。

  • 現在の貿易額を基準にすると、米国の輸入関税コストは2,470億ドル増加。
  • 最も大きな影響を受ける業界は、自動車部品(360億ドル増)、自動車(300億ドル増)、金属(190億ドル増)、電気機器(180億ドル増)、化学品(150億ドル増)。
  • メキシコ、カナダ、中国からの部品調達の割合や完成品の製造比率が高い企業の利益には、大きな影響が出る。BCGが欧州の自動車部品1次サプライヤー、米国のメドテック企業と消費財メーカーの計3社について新たな関税による影響を分析したところ、本業の利益率を示すEBITDAマージンが6~14ポイント低下すると見込まれる。

これらの試算には、米国の貿易相手国による報復措置は含まれていない。すでに中国は、石炭などに15%、原油などに10%の追加関税を課すと発表しており、2月10日から適用される。カナダも、酒類、家電などの米国製品に25%の関税を課す方針を示しており、さらに重要鉱物の対米輸出を制限する可能性も検討している。ただし、カナダは30日間の交渉期間中、報復措置を一時停止している。メキシコは「プランB」と呼ぶ独自の報復関税措置を準備中だ。

ビジネスへの影響はさらに深刻になる可能性がある。北米の製造業におけるサプライチェーンの多くは数十年かけて統合してきており、短期間で適応するのは困難だからだ。米国の輸入品のうち自動車部品の45%、自動車の47%、加工食品の43%がカナダとメキシコからの輸入だ。

また、これらの関税措置はほんの始まりに過ぎないかもしれず、企業はさらなる変化に備える必要がある。今回の大統領令は「アメリカ・ファースト」貿易政策の一部であり、米政権はEUや日本を含むその他の主要貿易国に対しても大規模な追加措置を検討している。

BCGで地政学とその貿易への影響を専門とするマーク・ギルバートは次のように述べている。「国際貿易の『ニューノーマル』が迫っている。関税引き上げの脅威がある以上、企業のリーダーたちは今すぐ対応するべきだ」

ビジネスリーダーが取るべき行動

企業のリーダーは具体的な行動を取る必要がある。

まず、「ウォールーム(対策本部)」を設置すること。ウォールームはもともと軍隊用語で、軍の司令官たちが作戦や戦略を議論する部屋のことだ。ここでは、グローバルなバリューチェーン全体のリスクや変化を監視し、素早く対応するため、あらゆる情報とタスクを集約し、迅速な意思決定につなげる企業内の専門部署を指す。ここのスタッフは、リアルタイムのコストデータや市場情報、主要製品や原材料の価格、サプライチェーンの弾力性を常に監視し、代替調達先の分析や今後の貿易環境のシナリオ分析を行い、さまざまな可能性を予測する。また、重要な製品カテゴリーや戦略的な決定について定期的に会議を開き、優先課題を見直していくことも大切だ。

次に、市場戦略の再考が必要だ。関税変更による財務的な影響を最小限に抑え、主要市場での競争力を維持するための戦略を立てる。そのためには、コストをどの程度吸収できるのか、あるいは市場によっては価格転嫁が可能なのかを慎重に検討することが重要だ。また、貿易や関税規則への高度な対応、市場への供給拠点の変更、代替原材料の使用、または製品ポートフォリオの見直しによって、どの程度リスクを軽減できるかも考慮すべきだ。加えて、価格上昇が顧客需要を減少させる可能性や、製品の変更が市場戦略に及ぼす影響も見極めなければならない。さらに、新たな市場の開拓も視野に入れ、成長の機会を探る必要がある。

最後に、サプライチェーンの弾力性を高めること。必要に応じて、生産拠点や調達先を関税の低い、または非課税の国へ移転することを検討すべきだ。2拠点あるいは多拠点から調達する戦略を取ることで、貿易政策のさらなる変更による混乱を軽減できるだろう。ただし、こうした動きには、大規模な設備投資やスケールメリットによるコスト削減効果の損失といったトレードオフが伴うため、慎重な判断が求められる。

原典:How to Prepare for Tariffs and the New Reality of Global Trade(2025年2月)

監修:BCGプロジェクトリーダー 許斐 建志