セットプランの再編成で動画配信サービスの解約を防ぐ

動画配信サービスの登場により、消費者は視聴するコンテンツの選択肢が広がった。しかし、消費者は特定の番組だけを見るため、契約しても短期間で解約してしまい、収益性が低い点が問題だ。メディア企業が今後数年間で持続可能な成長と収益性を確保するためには、ビジネスモデルの再構築が求められる。

ネットフリックス、アマゾン・プライム・ビデオ、ディズニー+なども解約が課題

現代社会において、消費者はネットフリックスやアマゾン・プライム・ビデオ、Hulu(フールー)、ディズニー+(プラス)など多数の中から、定額制動画配信サービスを選ぶことができる。一方、コンテンツ提供者にとって、定額制動画配信モデルは高い解約率とそれによる収益性の低さが問題だ。消費者は好きなコンテンツを見終わると、数クリックで簡単に解約し、次に話題のコンテンツが出たら再契約する。

米国の調査会社アンテナによると、動画配信サービスの有料会員の解約率は2024年1月時点で月間平均5.5%と高く、顧客の平均契約期間が20カ月弱であることを示している。顧客獲得コストの高さも相まって、コンテンツ提供者が収益を上げるのは極めて難しい。

実際に、コンテンツ提供者は革新的なバンドル(組み合わせ)が求められ、次の2つのアプローチに焦点を当てる必要がある。他社と手を組んで複数のコンテンツを提供する包括的な配信パッケージと、動画配信に限らずさまざまなサービスを手ごろな価格帯で提供する複数商品のセットプランだ。

小さな改善では解約は減らせない

メディア企業は、コンテンツへの多額の投資や年間契約割引の導入などで解約を防ごうと試みているが、効果はあまり出ていない。米国の動画配信サービス「ピーコック」は、スポーツやオリジナルコンテンツに多額の投資を行っているにも関わらず、2023年1月以降、月間の解約率は5.5%から8.5%の狭い範囲で推移している。月々の娯楽費を調整するため、サービス解約が消費者の行動として定着しつつある可能性がある。

解約率が高い理由はいくつかある。一つは、競争の激化により、新しく独占的なコンテンツが生み出されたが、一方で多くの視聴者がそれに慣れてしまったことだ。また、動画配信サービスは、サービス同士の競争だけでなく、従来のテレビやポッドキャスト、ゲーム、TikTok(ティックトック)やインスタグラムなどでのショート動画など、ほかの形態のメディアとも消費者の時間と関心を奪い合っている。

このような課題を克服するため、メディア企業は近年、サービスのバンドルを広く試みている。例えば、ディズニー+はHuluと共同で、それぞれ加入するよりも割安で契約できるセットプランを設けている。しかし、このような小規模のバンドルは解約率を大幅に改善するほどの効果はもたらしていない。実際に、Huluでは2023年12月時点でセットプランを契約した場合の解約率は3.7%と比較的低かったが、全加入者のうちセットプランを選択したのは15%だけだったため全体への影響は少なく、Hulu全体の解約率は5.4%とHulu単体の加入者の解約率とほぼ同じだった(図表1)。

HuluとDisney+の月間解約率を示したグラフ。小規模なバンドルによる解約率全体への影響は限定的

このように、今日のバンドルは十分に機能していない。バンドルがうまくいけば、既存加入者の単価が改善されるか(解約率が下がるか、顧客獲得コストが下がる)、新規加入者を獲得する道筋ができる。そのために業界はより大胆なアプローチを取る必要がある。

バンドル新時代における新たなビジネスモデル

動画配信サービスの収益性を改善するため、メディア企業は、より包括的な配信パッケージと、動画配信以外も含めた複数商品のセットプランに力を入れることを検討すべきである。メディア企業がバンドルを試みるとき、提携を結ぶ際の「利益はどのように分配されるのか?」「誰がそのパッケージを配信するのか?」といった現実的な課題を認識することが重要だ。こうした課題があっても、包括的な配信パッケージと複数商品のセットプランの双方の潜在的な利点を整理する価値がある。

●包括的な配信パッケージ

2023年、米国における動画配信サービスの有料会員の加入者は計2400万人の純増を達成した。しかし、有料会員の平均解約率は月6.5%だったため、実際には1億4200万人と契約しなければならなかった。定期的に退会と再加入を繰り返すユーザーは多く、もし解約率を2%まで下げられたら、同様の成長を達成するために必要な加入者数が4,500万人少なくて済む。顧客獲得コストを一人40ドルと仮定すると、約20億ドルのマーケティング費用を削減できる。

このようなコスト削減により、エンタメに特化した一般的なバンドルの価格は50ドル程度になり、10%台半ばの利益率を享受することができる。さらに、このようなパッケージとスポーツに特化したバンドルを組み合わせたら、利益率はさらに向上するだろう。

一方、消費者は単品のオプションを使い、娯楽費を抑える傾向がある。最近のBCGの調査では、エンタメのバンドルに50ドル以上支払う意思がある消費者はわずか25%だった。利用を促進するには、「バンドルの強制」、つまりバンドルのみを提供し、安価な単品やミニバンドルのオプションは提供しないといった大胆な方法を取る必要がある。攻撃的な戦略のように感じるかもしれないが、現在のビジネス環境において、強気の戦略を取らなければ、一部の動画配信サービスは事業から撤退せざるを得なくなるかもしれない。

●複数商品のバンドル

この手法は、サービスの量よりもバリエーションに焦点を当てている。2000年代初頭、ケーブルテレビはインターネットや電話サービスと組み合わせて契約されることが多かった。同様に、現在、アマゾンやアップルは、動画配信サービスに無料配送やクラウドストレージ(データのインターネット上での保管)、音楽、フィットネス・コンテンツを多面的にパッケージ化している。このように、動画配信をほかの魅力的な定額制サービスと組み合わせる。

このようなバンドルを作る上で重要なのは、あるサービスの顧客が別のサービスに興味を持ち、どちらも解約しないような組み合わせを見つけることである。複数商品のバンドルには、消費者が一貫して価値を見出すサービスのポートフォリオが含まれるのが理想的だ。消費者は、個々のサービスをしばらく使わなくても、パッケージ全体で見ると何度も戻ってくるだろう。例えば、アマゾン・プライムは動画配信、無料配送、音楽配信などさまざまなサービスを提供しているが、常にすべてのサービスを利用するわけではない人もいる。

BCGの最近の調査では、音楽やオーディオ、デバイスのサブスクリプションは解約されにくいことがわかった。これら全てが動画配信との組み合わせに適しているわけではないが、メディア企業がビデオを中心に顧客の日常生活に不可欠なエコシステムを構築するチャンスを示している。調査結果では、近年、動画配信と一緒に提供されている食料品やミールキットは解約の可能性が高く、バンドルの有力候補にはならないかもしれない。一方、ゲームや、電気やガスなどの公共料金は、一部の配信サービスにとって良い選択肢となる可能性がある(図表2)。

コンテンツごとのサブスク市場規模と解約率を示した表。市場規模が大きく解約率が低いサブスクは、バンドルでより高い価値を生み出す可能性がある。

視聴者の選択肢が多様化する中、動画配信サービスの提供者は、より効果的なバンドル戦略を採用する必要がある。広告の導入や値上げ、不正なアカウント共有の取り締まりなど、現在の戦術では限界がある。収益性を改善し解約を減らすためにも、適切なサイズの、より多様なバンドルを導入することで消費者にとっての価値を高め、持続可能なビジネスモデルを構築するための道を開くことができるだろう。