金融機関における生成AIの活用 営業や貸出審査の効率化に威力

生成AIは金融業界の生産性向上に大きく寄与すると考えられる。BCGの調査チームが2023年半ばの時点で生成AIの生み出し得る需要規模を推計したところ、金融、保険業界においては2027年に全産業中最大の320億ドルとなり、2022~25年の成長率は75%にのぼると見込まれる。

ただし、金融機関の受け止め方は複雑だ。過去、デジタルやデータの活用では、ビッグデータや従来型のAI、RPA(ソフトウエアによる業務プロセスの自動化)などさまざまな技術に注目が集まったが、いずれも部分的な導入や改善にとどまり、変革の波が組織全体に及ぶことはなかったためだ。

しかし、大手金融機関はすでに事業部門ごとにどのような分野で活用できそうか検討を始めたり、自社向けにカスタマイズした生成AIをどう作るかについて外部と議論したりしている。生成AIは本当に業界を変えるような動きになるのか、手探りではあるが、新しい取り組みがスタートしている。

最大6~7割の作業工数・コストの削減が可能

実際、金融機関のどのような業務に適用できるのか。図表1は、銀行業務を念頭にフロント(対顧客部門)、ミドル・バック(事務・開発部門等)、本部機能に分類し、活用事例をマッピングしたものだ。横軸には実際に効果が現れるまでの期間、つまり難易度を置いた。金融機関では、通常の企業と比較してコンプライアンスが重視され、リスク対応の責任が重い。そうした業務では自動化する前に精緻な検証が必要で、効果が出るまで時間がかかる構図となっている。

顧客対応での活用例を見てみよう。マス顧客向けの広告では、作りたいもののイメージが明確であれば、将来的にはAIという部下を使ってコンテンツ案を社内で作成できる可能性がある。個人の属性に応じて広告の中身を頻度高く更新でき、顧客のニーズに応じたパーソナライゼーションが可能になる。

営業活動ではPDCA(計画、実行、評価、改善)分析の工数削減、顧客を訪問する時期や提案内容を含む個々の職員の活動の最適化、職員が顧客に接するときのロールプレイの練習台、などに活用できる。顧客対応の平準化、底上げが実現し、金融機関の悩みである人材のスキルのばらつきを一定程度解消できると見込まれる。コールセンターでの対応でも、これまでのAIは応対する職員の業務のサポートが中心だったが、将来的に直接顧客とやり取りできるようになればインパクトは大きい。

審査や顧客の本人確認(KYC)の自動化にはすでにAIが活用されているが、生成AI導入による大きな変化は、稟議書などの文書の作成等、人が介在していたプロセスを自動化できるところだ。不正の検知や与信実行後のリスク管理に踏み込めればさらに生産性は向上する。また、昨今金融機関では「本部の肥大化」が指摘されているが、情報収集、経営関連指標の解析などの業務の代替が進められれば、相当少ない人数で経営の意思決定に必要な情報収集が可能になるだろう。

どの業務領域で活用するにせよ、まずはデジタル戦略部門がユースケースを特定することが重要になる。合わせて、コンプライアンスやリスク対応が厳しく問われる金融機関では、ガイドラインを詳細に設定することも重要だ。広告企画のビジュアル案を練る段階で活用するのは許されるが、アウトプットは直接外部に公開しない、などがその一例だ。

あるべき人材ポートフォリオが大きく変わる

いくつかの業務についてそれぞれインパクトを定量化したのが図表2である。業務により幅はあるが、最大6~7割のリソースは削減できると考えられる。

生成AIにより代替が可能なのは単純作業に近い作業だ。大切なのは、これにより組織のあるべき人材ポートフォリオの姿が大きく変わる可能性があることだ。つまり、指示に従って確実に作業できる人材への需要はしぼみ、何が必要かを把握して的確に指示が出せる人材、課題を特定して正しい問いを投げかける人材の価値はむしろ高まる。さらに、AIの倫理的な活用を担保できる判断力も求められる。

デジタル化が進む中で、デジタル人材の不足を含め、将来必要なスキルのポートフォリオと現状の乖離は従来から金融機関の課題だった。生成AIが業務で活用されるようになれば、求められる人材のタイプも大きく変容する。海外の金融機関はリストラ含め人材ポートフォリオを抜本的に変えようとしている。一方で日本の金融機関は大胆な人員削減などは実施しにくいこともあり、生成AIへの対応が遅れれば、差が広がるリスクがあるだろう。