測れないものは削減できない 排出量削減にはAIやデジタル技術が鍵

「測れないものはマネジメントできない」――経営において、しばしば引用されるこの格言は、カーボンニュートラルの実現においても真となる。無色透明かつ無味無臭の二酸化炭素がどこでどの程度排出されているかを把握できなければ、実際に削減することは不可能だからだ。削減に成功している企業は、排出量の測定にデジタル技術を効果的に活用していることが最新調査からも判明している。炭素排出管理ソリューションを提供する企業CO2 AI(フランス)とBCGが共同で実施した、企業の温室効果ガス排出量の測定・削減に関する最新調査結果から、企業の脱炭素化の現状と成功している企業の特徴を解説する。

排出量全体の測定・削減は進捗なし

気候変動への懸念が世界的に高まっているにもかかわらず、一般的な企業はこの1年間、網羅的な二酸化炭素排出量の測定と削減において進捗はなかった。排出量を網羅的に測定していると回答した企業はわずか10%にとどまり、22年の前回調査から全く進展がない(図表1)。過去5年間に自社の排出削減目標を75%以上達成できた企業にいたってはわずか14%で、前回調査から3%ポイント減少する結果となった。

自社事業に関連する間接排出(スコープ3)においては改善の兆し

網羅的な測定・削減には進捗がなかったものの、製品の製造から廃棄までのプロセスを細分化して分析してみると、改善の兆しが見え始めている。サプライチェーンにおける排出量を分類する際には、「スコープ1・2・3」という3つの区分が用いられる。スコープ1は自社事業の直接排出量を、スコープ2は自社事業に伴う他社の排出量を、スコープ3はスコープ1・2以外の間接的な排出量(例えば、販売した製品の使用や排出量など)を指す。このスコープ3における測定と報告について顕著な改善が見られている。

今回の調査において、スコープ3排出量の部分的な測定と情報開示を行うとの回答は、2021年以降、34%から53%へと19%ポイント増加を遂げた(図表2)。同時に、スコープ3の削減目標を設定していると答えた回答者は、2021年以降12%ポイント増加し、23%から35%にまで達している。

国際NGOの英CDPによると、スコープ3はスコープ1と2を合わせた事業活動の排出量全体の約11.4倍にもなるとされる。排出量の多いスコープ3における測定と開示の改善は、ネット・ゼロの実現にとって心強い事実といえる。

排出量測定の精度と効率を上げるデジタル技術

排出削減目標に沿って排出量を削減している企業には、いくつか共通の特徴が見られる。そのうちのひとつは「デジタル技術の活用」だ。一般的に排出量は電気・熱の使用や輸送などの様々な活動とそれらに対応した排出係数をひもづけて算出する。製造から廃棄までの各プロセスにおいて手作業で実施するにはあまりに繰り返しが多く、多大な労力と時間を要する作業だ。これらの測定をデジタル技術によって自動化することは、排出量を評価する際の精度と効率を向上させ、排出量を削減するための方法を特定するのに役立つ。BCGの調査によると、自動化されたデジタルソリューションを導入している企業は、排出量を包括的に測定している可能性が2.5倍高いことが分かっている。

例えば、世界的に知られるメディア企業エコノミスト・グループは成功している企業のひとつだ。CO2 AIが提供する先進的なデータプラットフォームによって包括的な排出量の測定・削減目標の管理を行い、測定結果を具体的な削減につなげている。削減取り組みのKPI(重要業績評価指標)や情報開示のために重要な排出量測定をデジタル技術によって自動化することは、企業にとって大幅な効率化をもたらす。自動化できれば、貴重なチームのリソースを進捗状況のモニタリングのために消耗する必要はなくなるからだ。また、排出量を可視化したヒートマップによって排出量の多い箇所を特定し、新たな削減手段を見つけることで、排出量の多い取引先企業に対して客観的かつ透明性の高い議論を促し、共同で削減の取り組みを実現している。

AIが成熟するにつれて、デジタル技術によるソリューションは、排出量管理の精度や効率、そして意思決定を改善し続けるだろう。今回の調査の対象企業のうち約3割は、この可能性を認識しており、予測モデリングやサプライチェーンのトラッキングなど、様々な機能において、今後3年間でAIを活用したツールの導入を拡大する計画を立てている。

脱炭素化により競争優位に立つ企業の4つの特徴

今回の調査から、排出削減目標の75%以上を達成している企業には、4つの特徴があることが分かった

  • サプライヤーや顧客との協力:75%が大多数のサプライヤーと共同で削減に関する取り組みを行っていると回答、54%が大多数の顧客と取り組みを行っていると回答した
  • 製品レベルでの排出量計算:75%の企業が、少なくとも一部の製品について原材料から出荷までの排出量を計算することを試みている
  • 排出量管理プロセスにおけるデジタル技術の活用:自動化されたデジタルソリューションを排出量の測定に導入している企業は、排出量を網羅的に測定している割合が約2.5倍高い(図表3)。また、デジタルテクノロジーは排出量管理の精度・効率、意思決定を向上させる。目標に沿って排出量を削減している30%の企業が、今後3年以内にAIを活用したツールの導入を拡大する予定
  • 規制を肯定的に捉える:排出量報告に関するルールについて、排出量削減を可能にする重要な手段であると考える傾向が2倍高い

脱炭素化は企業にとって、経済的なメリットと非経済的なメリットの両方をもたらすことも判明した。そのメリットは、レピュテーション向上や人材の獲得と定着の改善、節税など多岐にわたる。今回の調査に回答した企業の4割は、排出量削減により年間1億ドル以上もの経済的利益を見込んでおり、その割合は22年の前回調査から3%ポイント増加している。

レポートの共著者で、BCGでCO2 AIの開発を率いたのち現在はCO2 AIのCEOを務めるCharlotte Degotは次のように述べる。「削減目標と、現実の具体的な効果との間の溝を埋めるうえで、企業にとってテクノロジーとAIの力はますます大きくなっている。目標通り排出量を削減している企業のベストプラクティスを拡大するために、今すぐ動くべきだ」

調査レポート:Why Some Companies Are Ahead in the Race to Net Zero