BCGヘンダーソン研究所が示す2050年の4つのシナリオ 複数の未来に備えた戦略を

ボストン コンサルティング グループの戦略シンクタンクであるBCGヘンダーソン研究所(BHI)はこのほど、2050年までの世界経済の4つのシナリオ(図表1)を作成した。100年にわたる時系列データと、テクノロジー、地政学、気候、社会、経済などの領域で100以上のメガトレンドを分析し、2050年までに起こると考えられる4つのシナリオを提示している。

企業の経営リーダーが見据えるべき4つのシナリオ

レポートでは、2050年までの世界のGDP成長率については、最も楽観的なシナリオで年率5%、悲観的なシナリオだと1.8%になると推計している。経営リーダーは、複数のシナリオを検討することで、将来の変化を示す兆候や有効な対応策を見極め、不確実な環境下でも組織のレジリエンス(回復力)を高めて競争優位性を確保することが求められる。

2050年までの4つのシナリオを示した図表。AI技術の進展による繁栄、対立するブロック経済、気候変動対応を軸にした協調、デジタル・ダーウィニズムの4つがあり、各シナリオで世界貿易の規模や防衛支出のGDP比がばらつく

①AI技術の進展による繁栄:このシナリオでは、人工知能(AI)の基準づくりで国際協調が進むことで、生産性向上が加速し、テクノロジーや低炭素エネルギーが活用しやすくなる。労働時間が減少し、一部の地域では週3~4日勤務が一般化する。さらに、AIの支援により新素材の開発や二酸化炭素除去技術が進み、遅れながらも現実的にネットゼロを達成できる道筋をたどる。

②対立するブロック経済:国際協調が弱まり、世界貿易の構造が再編されるシナリオ。世界貿易の規模はGDP比で、2024年の57%から約35%まで縮小する各国は安全保障と自給自足を優先するようになり、防衛支出は4つのシナリオで最も高いGDP比約7%を占めると推計される。

気候変動対応を軸にした協調:2020年代後半に起こった相次ぐ気象災害を受けて、政府・産業界・消費者が気候変動レジリエンスを優先するようになり、低炭素のエネルギー、インフラへの移行が加速するシナリオである。地球温暖化は産業革命前と比べて約1.8℃上昇と、4つのシナリオのうち最も低い水準で安定する。炭素取引市場は世界的に拡大し、2040年までに主要な経済国のほとんどが参加。エネルギー全体に占める化石燃料の割合は2025年の81%から2050年には35%まで低下すると推計される。

デジタル・ダーウィニズム(技術進歩と格差拡大が並行):このシナリオでは、規制が限定的なままテクノロジーの発展が続く一方、上位1%の富裕層が世界の富の約半分を保有し、格差が拡大する。また、AIや自動化によって定型的な業務が置き換えられ、単発や短期契約の仕事が増える。民主主義国家が減少し、世界秩序が分断される一方、経済合理性に支えられて貿易やサプライチェーンは維持されると想定される。

世界の予想GDP成長率は年率1.8%~5%とばらつく

図表2は、世界のGDP成長率のこれまでの推移と、2050年までの予測を示している。

GDP成長率の過去の推移と2050年までの予測を示した図表。1.8%~5%と、シナリオによって予測が大きく異なる

シナリオ①では、世界のGDPは2025年から2050年にかけて3倍以上に拡大し、成長率は年率5%と最も高くなる推計だ。これは1950~1970年代に先進国で見られた第二次世界大戦後の経済成長に匹敵する水準だが、人口増加やグローバル化ではなく、生産性の飛躍的向上が原動力となっている。AIの急速な進化が産業革命とロボティクス革命を引き起こし、重要鉱物の不足も緩和され、豊富で安価かつ信頼性の高い再生可能エネルギーが実現する。

一方で、②ではGDP成長率が最低水準の年率約1.8%にとどまる。成長の大部分は、国家安全保障や気候変動の影響緩和に対する政府支出によって支えられ、民間企業の活力は低下する。電力システムの問題で停電が頻発し、資源の制約は一段と深刻化。国際協力もほとんど見られず、結果として経済が低迷する見込みだ。

③では、GDPは年率約2.5%で成長すると推計される。AIを中心に技術の進歩は著しく、イノベーションの大部分は脱炭素化に関連する。雇用喪失は発生しているものの、国や企業がリスキリング・アップスキリングに投資しており影響は一時的だ。高齢化は続く一方で、気候レジリエンスや環境回復を支えるインフラ需要の急増により、先進国では労働力不足がさらに深刻化する。

④では2025年から2050年にかけて、世界のGDPは年率4%で成長する。巨大企業によって新たな技術や知識が囲い込まれ、イノベーションと進歩のスピードを鈍化させる。それにもかかわらず、経済パフォーマンスは非常に好調となる。

レジリエンス構築や人材戦略の再構想はすべてのシナリオで不可欠

レポートでは、企業の経営リーダーに対して、すべてのシナリオに共通する「後悔の少ない」5つの行動指針を提示している。これらを実行することで、企業は今後数十年にわたる環境変化への対応において優位なスタートを切ることができる。

  • レジリエンスの構築: 効率偏重からレジリエンス重視へと軸足を移し、調達先の多様化やオペレーション体制の再設計などを通じて、不安定な環境下でも事業を継続できる体制をつくる
  • 人材戦略の再構想: AIと高齢化の時代に対応するため、幅広い世代間での協働や柔軟な役割設計、人材の流動性を踏まえた戦略を立て、新興労働市場を含めて採用対象を拡大する
  • デジタル基盤の柔軟性向上: 技術の急速な進展に柔軟に対応できるよう、機能ごとに独立した「モジュール型」のテクノロジー・データ基盤を設計。信頼性の確保とサイバーセキュリティにも重点を置く
  • 変化を察知し、働きかける力の強化: 規制、地政学、資源、技術などの変化を察知し、迅速に意思決定できるケイパビリティ(組織能力)を高める
  • 社会的役割の拡大: 従業員のウェルビーイング、地域のレジリエンス、危機管理などに対し、これまで以上に責任を担えるよう備える

調査では、マクロ経済学から宇宙工学に至る専門家数十人へのインタビューやストレステストを実施。技術発展、世界貿易やエネルギー転換などの重要な領域ごとに将来の展開を整理し、それらの相互関係を検討した。過去のデータと将来予測を組み合わせ、2050年に向けて、GDP成長率をはじめ、地政学、社会、環境などに関連する20の指標がどのように変化し得るかを推計。そのうえで複数の将来像を組み合わせ、それぞれ論理的に一貫性があり、互いに大きく異なる4つのシナリオを構築した。

BHIのグローバルリーダーで、レポートの共著者であるニコラス・ラングは次のように述べている。「今後5年間に下される意思決定が、その先の25年を形作る。未来は“崩壊か繁栄か”と極端に描かれることが多いが、実際には、経営リーダーは多様な未来に備え、どのような状況でも通用する意思決定を行う必要がある」

■ 調査レポート: Beyond Tomorrow: Four Scenarios for the World of 2050(2026年4月)

■ 調査概要:

調査では、100超のメガトレンド分析をもとに、2050年の世界を左右する20項目を抽出。それらをマクロ経済・テクノロジー、地政学・社会、人・仕事、地球・資源の4領域にわたる指標として整理し、起こり得る複数の将来像を4つのシナリオに収束させた。 

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