経済安全保障は次の段階へ 企業に求められる役割も大きく変わる

企業は経済安全保障にどう向き合うべきか

では、上記で示した昨今のトレンドに対し、企業はどのように対応していくべきか。図表2に企業に求められる対応をまとめた。

経済安全保障の4つのトレンドと企業の対応を示した図表。物資からバリューチェーン全体に経済安全保障の対象が広がったことに伴い、企業もモノから機能にリスク管理を拡張するなどの対応が求められる

① リスク管理を「モノ」から「機能」へ拡張

経済安全保障で守るべき対象が拡大する中、単に完成品や一次調達先だけを見るのではなく、研究開発・データ・保守まで含む産業バリューチェーン全体でリスクを把握・評価すべきである。従来のように、部材や調達先単位でサプライチェーンを可視化するだけでは不十分であり、どの工程・物資が止まると事業全体に影響するのかを特定することが重要だ。具体的には、原材料や部品だけでなく、研究開発、データ、製造設備、ソフトウェア、保守・運用体制、さらには外部委託先や人材まで含めて棚卸しする必要がある。

また、改ざんや情報流出などのリスクも含め、どのデータやシステムが汚染されると提供価値が毀損するのかを明確にすることが求められる。これらのリスクを棚卸した上で、自社の守るべき領域を再定義することが出発点となる。

信頼できる外部を戦略的に組み込む

「国内回帰か海外展開か」の二択を止め、信頼できる国・機関・パートナーを組み合わせたネットワークを設計することが必要だ。経済安全保障の観点も含めて協働する相手を検討することが、競争優位性につながる。

そのため、調達先や共同研究先についても、コストや効率性だけでなく、供給の継続性、制度の信頼性、データや技術の管理体制といった観点を踏まえた選定の重要性が増している。また、海外進出や共同研究を行う場合も、技術移転やデータアクセスの範囲、ガバナンス体制、契約条件などを、政策動向も踏まえながら検討していくことが重要となる。

備えるべき事象の幅を広げる

極端なシナリオも現実に発生する可能性が高まる中、想定するリスクの幅を広げ、自社にとって重要な領域から順に影響度を点検することが現実的なアプローチとなる。安全保障をめぐる環境変化に対し、すべてのリスクに一律に備えることは難しい。まずは、平時にも起き得る供給不足や情報漏えいなどのリスクから、極端なシナリオまで含め、どのような事象が起こり得るかを整理することが大切だ。

そのうえで、重要拠点や設備、データ、委託先について、「何が起きた場合にどの程度影響が出るのか」、「復旧にはどの程度の時間がかかるのか」、「代替手段はあるのか」といった観点から点検することで、優先的に対応すべき領域が見えてくる。全面的な見直しではなく、代替調達や在庫、物流、データ管理などを組み合わせながら、段階的に対応していくことが現実的だと考えられる。この際、自社だけでなく、業界団体や関連する行政機関とも連携することが有用だろう。

④ 経済安全保障を経営に埋め込み、「面」で対応する

経済安全保障は環境変化に応じて継続的に見直し、対応すべき経営課題として位置づけられる。そのため、法務や渉外などの部門が個別に対応するのではなく、サプライチェーンマネジメント、研究開発、IT、財務、経営企画、海外事業など関連部署が横断して取り組むことが重要になる。

この際、官民協議会や政策対話の場などで得られる情報も活用しながら、自社の前提や対応方針を更新していくことが求められる。つまり、各種制度への対応にとどまらず、環境変化を踏まえて運用を見直し続けることが、結果的にリスクを低減するとともに、競争力につながっていく。

安全保障環境が激しく変化する中、経済安全保障を巡る政策の動きもめまぐるしい。このような状況で企業に求められるのは、もはや単なる受け身の制度対応ではない。自社の競争優位性を特定したうえで、政策の動向と足並みを揃えつつ、何を優先的に守り、何に備え、誰とどう組んで攻めていくのか、継続的に検討し、実施していくことが重要である。

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