【国際女性デー】女性のヘルスケア分野に対する民間投資額はわずか6% BCG・WEF共同研究
3月8日は国際女性デーだ。女性は男性より寿命が長い傾向がある一方で、不健康な状態または障害を抱えて過ごす期間は25%長い。この健康格差は、個人の生活の質のみならず、労働参加率や長期的な経済成長にも影響を及ぼしている。女性の健康は、経済の強靭性と密接に結びつく問題だ。しかし、グローバルヘルスケア市場においては女性の健康への投資は依然として少ないことが、BCGと世界経済フォーラム(WEF)の共同研究から明らかになった。
女性のヘルスケアに特化した企業が獲得した資金は1%未満
2020年から2025年にかけて、ヘルスケア分野全体に投じられた民間資本は約2.87兆ドルだ。しかしそのうち、女性のヘルスケア分野に向けられた資金はわずか6%(約1,750億ドル)にとどまっている。さらに、女性特有の健康ニーズに特化した企業が獲得した資金は1%未満(約230億ドル)である(図表1)。

また研究では、女性のヘルスケア分野への民間投資の流れを可視化するため、「Women’s Health Investment Index」を導入した。これは、過去5年間の投資を治療領域や業種、投資段階別に整理し、資本がどこに集中し、どこに不足しているのかを明らかにする分析ツールである。
このツールを活用した分析によれば、女性のヘルスケア分野に流入している民間資本の90%が「リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)」「母体のケア」「女性特有のがん」の3領域に集中している。一方で、女性に特有の疾患や、男性より女性に強い影響を及ぼす疾患は、患者数が多いものや社会的負担が大きいものも多いが、これらへの投資は十分とはいえない。例えば、心血管疾患、骨粗しょう症、更年期障害、アルツハイマー病が代表的な疾患として挙げられる。BCGの試算によれば、米国においてこれら4つの疾患の治療を改善するだけでも、2030年までに1,000億ドル超の市場価値を創出できる可能性がある。
分析結果からは、女性のヘルスケア分野への投資の多くが創業初期の企業に集中していることも明らかになった。2020年から2025年の間、女性のヘルスケアに特化した企業への投資の約50%は、プレシードまたはシード段階(創業前後のごく初期段階)が占めており、22%がアーリーステージ(事業拡大を始めた段階)だ。一方、レイターステージ(本格的な成長・拡大局面)は28%と、ヘルスケア市場全体の41%を大幅に下回る(図表2)。

一方で、女性のヘルスケアに特化した企業の企業年齢の中央値は、他のヘルスケア企業とほぼ同水準である。つまり、投資対象が偏っている理由は、市場が若すぎるからではない。女性のヘルスケア分野が「水漏れパイプ」のように分断され、成長・拡大段階で資金が途切れやすい構造にあると研究では指摘されている。初期段階ではイノベーションが生まれているものの、成長フェーズで十分な資金が確保されず、拡大に至らないケースが少なくないのだ。
未開拓の投資領域と投資拡大のための重点
分析からは、資本が集中している領域と未投資の領域が可視化され、高い成長ポテンシャルを持つ6つの投資機会が浮き彫りになった。具体的には「女性特有のがんの治療薬」「オンラインを活用した女性向け医療サービスおよび企業向け福利厚生支援サービス」「妊娠・出産期の健康を遠隔で管理する医療サービス」「女性のライフステージに寄り添うメンタルヘルス支援サービス」「女性の長寿と健康維持を個別に支援する総合ウェルネスサービス」「血糖値やホルモンバランスを管理するウェアラブル機器やデジタルサービス」だ。
また、女性のヘルスケアへの投資を本格的に拡大するためには、投資家、企業、政策立案者、規制当局、医療提供者などの連携が不可欠だ。特に重要なのは以下の6つのポイントである。
- 女性の実態に基づく研究データを充実させ、イノベーションの不確実性を減らすこと
- 公的資金と民間資本を組み合わせ、初期段階の資金不足を補う仕組みを整えること
- 女性特有の症状を適切に評価できる基準を整え、承認プロセスを効率化すること
- 保険適用の範囲を拡大し、女性の医療・ヘルスケアサービスが人生の各段階で安定的に提供されるとともに、持続可能な運営基盤を確立できるようにすること
- 大手医療企業や保険会社が女性の健康を中核戦略に組み込むこと
- 成果データを共有し、投資家の信頼を高めること
女性のヘルスケア分野への投資は、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ(PE、未公開株)、機関投資家の参入により徐々に拡大している。しかし依然として大きな未開拓領域が残されている。女性の健康を社会課題としてだけでなく、経済成長を支える基盤投資として再定義できるかどうかが、いま問われているといえる。
原典: BCG-WEF Project: Closing the Funding Gap in Women’s Health(2026年1月)