「トランプ関税」の違法判決でどう変わる? 企業が考えるべき対応策とシナリオ
米連邦最高裁判所は2月20日、トランプ政権による国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税措置を違法とする判決を下した。多くの企業がいま、その影響を把握しようと奔走している。
今回の判決は、10%~50%の範囲で定められたいわゆる「相互関税」に影響を及ぼす。事実上、米国のすべての貿易相手国が対象で、中国、ブラジル、インドなどを対象とする追加関税にも波及する可能性がある。判決を受け、トランプ大統領は代替措置として、通商法122条に基づき、150日間限定で10%の追加関税を世界各国に対して発動。その後、15%への引き上げも表明している。
10%の代替関税の導入による国・業種別の影響
最高裁判決は6対3と大差がつき、IEEPAは国家緊急事態への対応策であり、議会の承認なしに大統領が輸入品に関税を課す権限を与えるものではないと結論づけた。
10%の代替関税の発動により、米国の貿易加重平均関税率は15%から約12%へと低下する見込みだ(仮に15%に引き上げられた場合、最大で約13%)。国や業種ごとに影響は大きく異なり、中国とブラジルは相互関税のころと比べて最も大きく低下する見込みだ(中国は約36%から約25%、ブラジルは約22%から約14%に低下。関税が15%に引き上げられた場合は、それぞれ約27%、約16%となる)。欧州連合(EU)および英国は、代替関税が10%にとどまる場合、関税率の下げ幅は最も小さい。関税水準はこれまでと横ばいに近いが、15%に引き上げられた場合、相対的に不利となる可能性がある。
業種別に見ると、関税率の下げ幅が特に大きいのはコンシューマーエレクトロニクス業界であり、平均関税率は11%から4%へと低下する見込みだ(関税が15%に引き上げられた場合は5%)。このほか、電気機械、耐久消費財、ファッション・ラグジュアリー業界でも同様の低下が見込まれる。一方で、IEEPA関税と10%の代替関税のいずれにおいても適用除外措置が設けられているか、もしくは「セクター別関税」の対象となっている、バイオ医薬品、加工食品、自動車などの業界では、関税率の変動は限定的にとどまる見通しである。
企業が注視すべきポイント
今後、企業が注視すべき主なポイントは、以下の通りだ。
・米政権は、通商法122条に基づく代替関税を、現行の10%から法令上の上限である15%へ引き上げるのか。引き上げる場合、その時期はいつになるか
・150日間限定の代替関税措置が終了した後、米国は長期的に関税を引き上げるために、どのような法的手段を活用し得るのか
・今回の相互関税に関する判決は、米国と約20カ国との二国間交渉における通商合意にどのような影響を及ぼすのか
・すでにIEEPA関税として支払われた1,300億ドル超について、米国の輸入業者は返還を受けることができるのか。可能な場合、その手続きはどのようなものか
米政権は2月24日から、相互関税の代替措置となる10%の追加関税を発動している。原則すべての輸入品が対象だが、自動車製品、重要鉱物、農産品、医薬品など、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)適合品や戦略的物資はこれまでと同様に適用除外のままとなる。一方で、通商法122条の適用により最恵国向け税率の上限が撤廃されたことから、IEEPAのもとで優遇措置を受けていた一部の製品については、関税負担が増加する可能性がある。

現行の代替関税は、他の通商措置が実施されるまでの「つなぎ」として機能する位置づけだ。トランプ政権は今後、不公正な貿易手段をとる国に制裁関税をかける通商法301条に基づく関税に移行する方針を示している。さらに、自動車関税などの分野別関税を発動できる通商拡大法232条に基づく調査も進められている。これらの関税措置は、緊急措置として発動される通商法122条と比べて長期的に維持される可能性が高い。
また、今回の判決によって、2025年に米国が各国と締結した二国間合意がどのような位置づけになるのかも不透明だ。英国、EU、ベトナムとの合意は、2025年4月2日に米国がIEEPAに基づく関税を一方的に導入した後に締結されたものである。しかし、IEEPA関税が違憲と判断されたことで、一部の国は合意の撤回や再交渉を求める可能性がある。一方で、当面は現行の条件を維持する方が実務的だと判断する国もあるだろう。
今回の判決では、米国の輸入業者がこれまでに支払ったIEEPA関税の返還については言及されていない。多くの企業が速やかに返還を申請するとみられるが、その手続きや時期、適用要件は依然として見通せない。トランプ政権は、本件は訴訟によって決着するとの見方を示している。
企業の経営リーダーが取るべきアクション
今後の関税動向を踏まえ、企業が競争力とレジリエンスを高めるために、経営リーダーが講じるべき主なアクションは以下のとおりである。
● シナリオプランニングの高度化
関税対応の司令塔機能を強化し、米国の通商ルールや制度の変化に備える体制を整える。第122条における適用除外の見直しや、今後導入され得る新たな法的手段を踏まえ、自社の主要製品やサプライチェーンに対する関税リスクとその影響を、競合他社との比較も含めて精査する。
● 関税引き下げの機会に備える
関税率の引き下げが生じた場合には、そのメリットを最大限に活用する機会を探る。たとえ短期的であっても、税率が低下している局面では出荷を前倒しするなどの対応を検討する。ここでも競合他社の動向を注視することが重要である。
● 関税の返還を潜在的な伸びしろとして捉える
米国にこれまで支払ったIEEPA関連の関税について、将来的な返還申請に備え、必要な書類や記録を今のうちに整理・準備しておく。
● 貿易コンプライアンスの強化
通商規制の変化に迅速に対応できる体制を整える。特に、トランプ政権が今後、関税以外の手段(貿易の遮断、禁輸措置の発動、輸出ライセンスの制限など)を活用する可能性を示唆していることを踏まえ、非関税措置への対応力を高めることが重要である。
● 中長期的なコスト・レジリエンスの強化を継続する
通商ルールの変動が続くことを前提に、関税リスクを継続的に把握・低減する。具体的には、サプライヤーの多様化、米国近くに生産拠点を置く「ニアショアリング」や「オンショアリング(国内回帰)」の検討・見直し、契約条件の再交渉などを進めることが求められる。
● 地政学対応力の強化
不確実性が高まる中、関税対応や政策動向のモニタリングを含む地政学リスクへの対応力を社内に構築・強化する必要がある。こうした体制を整備することで、適切な資本配分や戦略的意思決定を確実に行えるようにする。
原典: What Does the US Supreme Court Ruling on Tariffs Mean for Your Business?(2026年2月)