女性起業家の活躍を阻む5つの壁 大口資金調達の難しさ、相談相手の不足——国内スタートアップ調査から

スタートアップは経済を牽引する存在として重要性を増す一方、日本国内に目を向けると、女性起業家の数はごく少数にとどまっている。日本初ESG重視型グローバルベンチャーキャピタルのMPower Partners Fund(MPower)とBCGは共同で、女性起業家が直面する課題を可視化する調査を実施。その結果と解決に向けた具体策をレポート「スタートアップ調査: 女性起業家を取り巻く課題と解決策」にまとめた。女性起業家には、相談相手となるメンターの不足や資金調達の難しさ、ライフイベントによる時間的制約など、複合的な壁が存在することが明らかになっている。

女性創業企業の調達額は上位100社の1%にも満たない

調査では国内スタートアップ46社へのアンケートと、9社へのインタビューを実施。女性起業家は人数も資金調達額も依然として少なく、その潜在価値が十分に活かされていない実態が浮かび上がってきた。

まず国内のスタートアップ起業家の性別構成を見ると、男性のみでの創業が9割にのぼり、次いで男女混合が2割弱を占める。女性のみでの創業は1割に満たない。国内における正規雇用者の男女比が3対2であることと比較すると、大きな偏りが生じていることがわかる。

資金面でも同様の傾向が見られた。2024年の資金調達額上位100社の合計のなかで、女性が創業者(もしくは社長)に含まれる企業の調達額が占める割合は1%以下となっている。また、2020~2024年の女性創業企業の初期の企業評価額は、男性創業企業の半分以下だ。

女性起業家の38%が性別に起因するネガティブな影響を自覚

一方で女性創業企業は、調達額に対するIPO(新規株式公開)時の時価総額の比率が男性創業企業の1.5倍と高く、設立からIPOまでにかかる日数も比較的短いことも明らかになった(図表1)。これを踏まえると、女性創業企業は創業初期の時点で過小評価されているともとれる。

女性創業企業はIPO(新規株式公開)時の調達額あたりの時価総額が男性の約1.5倍と高いうえに、早くIPOに到達する傾向があるにも関わらず、創業初期の評価額は男性の半分以下。

実際に、調査に回答した女性起業家の38%が「シード期(創業初期)に性別がネガティブに影響した」と感じていることもわかった。国内のスタートアップ・エコシステムを活性化させていくためには、女性の起業への意欲を高めるとともに、適切な企業価値評価に基づく資金提供の仕組みを整備することが求められる。

女性起業家の活躍を阻む“5つの壁”

レポートでは、女性起業家の活躍を阻む要因として「人材・スキル」「プロダクト」「資金調達」「制度・インフラ」「文化・社会」の5つの領域における課題が複雑に絡み合い、大きな“壁”が形成されていると指摘している。

人材・スキル:経営スキルや知識・経験不足が顕在化しやすい創業初期のタイミングで、女性起業家の場合は相談相手との出会いが限られることが課題として挙げられた。

プロダクト:特に市場規模や拡張性が課題になっている。調査回答者のうち、市場規模の小ささや拡張性の低さを投資家から指摘された人の割合は男性起業家54%に対し、女性起業家では81%にのぼった。

事業に拡張性をもたらす要素としてテクノロジーが挙げられるが、「技術開発」について難しさを感じている女性起業家の割合は50%と、男性起業家の33%を上回っている。技術に関する知識不足のために、実現に必要な人材の要件定義が困難になっている様子がうかがえた。実際に、「テクノロジーを利用したサービスを構想したものの、技術への知識が不足していたためエンジニア採用でどのような人材が適しているか判断できなかった」という声が上がった。

資金調達:ハイリスク・ハイリターンを好む投資家と、“地に足の着いた”事業を選択する傾向にある女性起業家との選好の不一致が、大口の資金調達を困難にしている。女性のみで創業したスタートアップの割合が最も高い「公共&教育」(16%)の領域は、ベンチャーキャピタル(VC)の投資先割合が最も低い。逆に、VCの投資先割合が最も高い「製造&エネルギー」の領域では、女性のみで創業したスタートアップの割合は4%にとどまっている。

制度・インフラ:特に結婚・出産育児・介護などライフイベントに伴う時間的制約が、事業に必要な時間の確保を難しくしている。男女ともに事業に対して相当の時間を割いている一方、調査に回答した女性起業家の約半数が「ライフイベントが仕事にネガティブに影響している」と感じており、男性起業家の割合を上回った(図表2)。

文化・社会:女性起業家に対する無意識的なバイアスやロールモデルの乏しさが、起業へのハードルを高めている。「女性の起業」のイメージが「一部の特別な経歴を持つ人だけができるもの」と固定化され、現実的な選択肢になりにくくなっている可能性が指摘された。

ライフイベントが仕事にネガティブに影響していると感じる割合は女性の方が21ポイント高く、事業に必要な時間を確保する負荷が大きい。

相談できる場の拡充や安易なラベリングの是正、関係者一体で推進を

レポートでは以上の5つの壁に対する解決の方向性と、具体策としてステークホルダー(投資家、政府・自治体)に推奨されるアクション、起業家に求められるマインドセットを提示している(図表3)。

調査を通して特定された、5つの解決の方向性と具体的なアクション。方向性は、接点・機会の拡充、投資評価、行動指針、制度設計、バイアスの軽減に分けて考えられる。

レポートの共著者であるMPowerのゼネラル・パートナー、キャシー 松井氏は「女性起業家の力を最大限に引き出すには、まず短期的に、事業を伸ばすための資金や人材などのリソースにアクセスできる機会を増やし、起業への不安を減らすことが大切だ。また、性別に関係なく活動しやすい環境を整える必要がある」とコメントしている。「中長期的には、女性の起業が自然に応援される文化や雰囲気を育てていくことが求められる。相談できる場を増やしたり、性別だけで決めつけるような安易な“ラベリング”を見直したりするなど、関係者が一貫した取り組みを進めることが重要だ。さらに、起業家自身もそれらの制度や支援を積極的に活用する姿勢を持つことで、より大きな効果が生まれると期待している」

共に調査を担当したBCG社会貢献グループの日本リーダー、折茂 美保は「女性起業家の持つ可能性が改めて明らかになった。投資家、政府・自治体、起業家が連携し、今回見えてきた『5つの課題』を短期・中長期の目線で解決できれば、女性起業家の持つ可能性が十分に開花する社会の実現、ひいては日本経済のさらなる発展につながると信じている。一人でも多くの女性起業家が輩出され、成功し、次の世代を後押ししていくことを期待したい」とコメントしている。

■ 調査資料
スタートアップ調査: 女性起業家を取り巻く課題と解決策」(2026年1月)

記事一覧へ