AI時代のマーケティング戦略(後編) リーチと訴求力を最大化する方法

消費者の購買行動が多様化する中、企業はマーケティング戦略の見直しを迫られている。消費者が購買に至る過程はそれぞれ異なるため、前編で紹介した新たなフレームワークを活用し、効果的に訴求できる施策を検討すべきである。後編では、マーケティング施策が消費者の目に触れることと、購買行動に影響を与えることは異なることを示したうえで、AIを活用して訴求効果を最大化する方法を提示する。

消費者にリーチした=購買行動に影響する、とは限らない

マーケターが新しい計画を検討する際、リーチと影響力の両方を生み出すタッチポイントを選択する必要がある(図表)。リーチが高くても影響力が大きいとは限らないため、リーチだけを重視すると施策を過大評価する恐れがある。

リーチと影響力を軸にタッチポイントを分類したマトリクスの図表。高いリーチを持つタッチポイントは、必ずしも影響力が高いとは限らない

ここで言う「影響力」とは、単なる視認性だけでなく、消費者の注目度合い、コンテンツとニーズの関連性、そしてタッチポイントやプラットフォームに対する消費者の信頼度の3つの要素で決まる。これらとリーチを組み合わせて考えることで、優先すべきタッチポイントを判断できる。

影響力という観点では、リーチの種類によって価値が異なる。高いリーチを持つタッチポイントは、ブランドの露出を拡大できるものの、必ずしも影響力を高められるとは限らない。リーチだけに注目すると、消費者が一瞬でスクロールして流してしまう広告や、15秒間のスキップできない動画広告、数分間にわたり注意を引きつけ強い印象を残すコンテンツなどをすべて同等だと誤って評価してしまう可能性がある。

リーチと影響力の両方を最大化するには、消費者が何を見ているかだけでなく、ニーズにどう効果的に応えるかを理解することが不可欠だ。たとえば、検索結果のトップに表示される広告は、消費者のニーズと一致していれば高いリーチと影響力向上の両方を実現できる。

影響力のある計画をAIで実行する

マーケターは、それぞれ異なる購買行動に合わせて最適な方法で対応する手段が必要だ。そこでAIが業務を効率化し、影響力やターゲティングの精度を高める役割を果たす。だが、AI活用を成功させるには、根本から視点を転換することが重要だ。マーケターは以下のステップで、影響力を基点とした計画を立てる必要がある。

①タッチポイントが消費者の購買行動に与える影響を理解する

まず、調査と分析によって、自社の商品やサービスについて主要な消費行動を把握し、最も影響力の大きいタッチポイントを特定する。その際、リーチだけを見るのではなく、あらゆる消費行動における注目・関連性・信頼度の指標を組み合わせることが重要だ。

②タッチポイントを全体的にとらえる
広告だけでなく、消費者に影響を与えるすべてのタッチポイントを同じ視点で評価する。たとえばインフルエンサーによるPR、企業のウェブサイトやオウンドメディア、パートナーシップを通じた共同開発型タッチポイントが含まれる。

③各消費者に合わせた個別のプランを構築する

消費者ごとに最適化したプランを作成し、各段階での特定のニーズや嗜好に対応する。こうしたオーダーメイド戦略によって、それぞれの特性に合わせてタッチポイントやメッセージを調整でき、エンゲージメントを最大化できる。

生成AIを活用することで、マーケターはコンテンツ制作のスピードを上げられる。AI導入で先行する企業の中には、コンテンツ制作は最大4倍、コピーライティングは最大5倍の速さでできるようになったという報告もある。地域ごとの最適化やリアルタイムでのコピー修正などの作業を自動化することで、消費者にとって関連性が高く効果的なコンテンツを数多く生み出せるようになる。

予算についても、AIによって影響を最大化できるチャネルに適切に配分できるようになる。大多数のCMOはすでに生成AIを導入し、AIを活用した製品やサービスの提供を計画している。AIはリソース配分と戦略的な広告配置を最適化し、投資価値を最大化するのだ。

リーチと訴求力を最大化するブランド戦略

BCGが2,000人以上のマーケターを対象に実施した調査によると、企業の80%は依然としてAI導入の初期段階にあり、まだ実験的な取り組みが中心となっている。一方で、20%の企業はAIをワークフローに統合し、エンド・ツー・エンド(E2E)のソリューションを構築している。 また、AIを導入した企業は、他社と比べて収益成長率が60%高いことが分かった。

CMOにとってAI活用で競争優位を築くには、組織全体のマインドセットを転換し、新たなフレームワークや人材戦略の導入、人とAIの協働を重視した業務プロセスの再設計が求められる。その第一歩として、マーケターは次のような行動に取り組むべきだ。

影響力を基点に計画を立てる

  • 各カテゴリーにおける主要な消費者行動を特定するための調査を実施する
  • 影響マップを作成し、動画視聴、SNSの流し見、検索、ショッピングが各カテゴリーでどのような役割を果たしているかを深く理解する
  • チャネル全体での影響力を最大化するように、マーケティング計画を再検討する

AIを活用して実行する

  • 自社のAI導入状況を評価し、ベンチマークと比較して実態を把握する
  • インサイトや効果測定、メディア、クリエイティブなど、E2Eのワークフローの中でAIが活用できるプロセスを特定する
  • 最も影響力のある消費者行動を特定し、AIを試験的に運用する優先順位をつける

今後10年のマーケティングは、リーチと影響力が複雑に絡み合う関係を巧みに操れる者が制する。前編で説明した「影響マップ」は成功のための新たなフレームワークとなり、ブランド戦略は単なるリーチの拡大から、有意義で影響力の高いエンゲージメントへと進化するだろう。

原典: It’s Time for Marketers to Move Beyond the Linear Funnel(2025年1月)

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