AI時代のマーケティング戦略(前編) 新たなフレームワークで多様な消費行動をとらえる
マーケティングのあり方はいま、大きな転換期を迎えている。デジタル化が進み、消費者の購買行動は予測が難しく、より複雑で多様なものへと変化した。だが同時に、マーケティングの可能性もかつてないほど広がっている。持続的な競争優位を築くためには、「消費者に本当に影響を与えるものは何か」を見極め、最適な広告の出し方を検討することが求められる。
マーケティングにはより柔軟なフレームワークが必要
過去10年で、マーケティング環境は大きく変化し、市場で存在感を示すことはますます難しくなった。生成AIやSNS、動画配信サービス、オンラインショッピングなど、ブランドは多様化し続けるチャネルを通じて消費者と接点を持つ必要がある。一方で、消費者がたどる購買プロセスはそれぞれ異なり、マーケターにとっては、消費者の購買意欲を高めるための機会が無数に存在している。
しかし、社内のリソースが限られているうえ、考慮すべきタッチポイントが膨大なため、多くの企業はこれまで、複雑に入り組んだタッチポイント群を直線的なファネル(認知・検討・購入と、顧客の消費行動の過程を示したフレームワーク)に無理やり当てはめ、整理してきた(図表1)。このモデルは、戦略立案や予算配分などの方針を考える際は有用だが、リソース配分や訴求メッセージの判断を誤るリスクがある。そのため、消費者の実際の購買行動とより整合する柔軟なフレームワークが必要だ。

現代の消費行動は、動画視聴、SNSの流し見、検索、ショッピングという4つの行動が中心になっている。各行動を特定の購買プロセスに固定してとらえる従来のアプローチとは異なり、図表2に示した「影響マップ」では、これらの行動が消費者の購買プロセスの一連で発生し、時には複数の段階で同時に影響を与えることを前提としている。

これまでのフレームワークでは、縦軸に消費者数、横軸には認知から購買までのプロセスを置き、すべての顧客行動を単一の直線的ファネルで捉えてきた。
一方、新たなフレームワークである「影響マップ」では、縦軸はブランドが消費者の意思決定や行動にどの程度影響を与えられるか、横軸は従来と同様に認知から購買までのプロセスを示す。認知から比較・検討、さらには実行へのプロセスをどのように加速させられるかを、タッチポイントごとの影響度に着目することで可視化できる。このフレームワークでは、マーケターは各消費者の購買行動をより正確に把握し、影響力を効果的に高める戦略を考えられる。

図表3は消費者の購買行動を2パターンに分けて影響マップで整理している。
- 「直感的な戦略家」:デジタルに精通しており、新しい商品の発見や将来的な購入計画を立てることを楽しむタイプ。YouTube の視聴中に商品の広告を目にした後(①)、実店舗で大きく目立つディスプレイを見かける(②)。そこから商品のレビューを検索し(③)、最終的にデジタルクーポンを使って購入する(④)と想定できる。
- 「賢い節約家」:予算に敏感で特定のブランドに絞っていないタイプ。購買行動は、ネット検索で選択肢を比較することから始まる(①)。その後、SNSを見ていると、ニーズに合う商品を紹介するインフルエンサーの投稿が目に留まる(②)。興味を引かれて「今すぐ購入」を押し、アプリ内でそのまま購入を完了する(③)流れだ。
この2つの例は、影響力を高めるために消費者行動を正確に観察することの重要性を示している。購買行動の各段階において最も大きな影響を持つタッチポイントを特定することで、マーケターは消費者の具体的なニーズに合わせて、タッチポイント、コンテンツ、リソースを最適化し、最大限の効果を発揮できるようになる。
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後編では、リーチと影響力を最大化するマーケティング戦略について取り上げる。
原典: It’s Time for Marketers to Move Beyond the Linear Funnel(2025年1月)