経営層へのプレゼンで空振りしない「伝え方」――BCG流・効果的な資料作成術
スライド作成の定石パターンを押さえる
このように、スライドは、説明や議論を支える「補助線」のような役割として機能する。だが、スライド作成に苦手意識を持つ方も少なくないだろう。しかし、過度に身構える必要はない。スライドには一定の定石があり、それを習得することで資料作成の質とスピードは飛躍的に向上する。主張を支える論拠の構造に応じて、以下のようなパターンから適切なフレームワークを選ぶことが重要だ(図表5)。

また、フレームワークと同様に「どのグラフを使うか」も重要だ。各グラフはそれぞれ示す情報の得意・不得意があり、目的に合わないグラフを選んでしまうと、分かりづらく効果が半減してしまう。たとえば、絶対量を伝えたいのか、構成比を示したいのか。複数項目を比較したいのか、時間的な推移や相関関係を示したいのかによって、最適なグラフは異なる(図表6)。主張の内容と伝えたい論点を明確にしたうえで、グラフの特性を踏まえて選択することで、直感的かつ視覚的に訴えられる資料作成につながる。

ほかにもスライド作成において筆者が特に意識しているポイントを紹介したい。
一つ目は、情報量のコントロールだ。優れたスライドほど、往々にしてシンプルに作成されている。主張を支える上で必要最小限の情報がそろっていれば、ロジックは十分に成立する。必要以上に情報を詰め込みすぎると、かえって相手の理解を妨げてしまう。
だが、知っていることは書きたくなるし、余白があると埋めたくなる――これは自然な感情だと思う。筆者は学生時代に書道をたしなんでいたが、当時の師範に言われた言葉が今でも印象に残っている。「君は黒で文字を書こうとしすぎる。逆に白を描くことを意識すると、黒はより際立つ」。余白があるからこそ、字の雄弁さを際立たせることができる。これはスライド作成にも通ずる至言だと感じる。
二つ目は教条的にならないことである。先ほど、スライドには定石があり、情報量を適切にコントロールすべきだと述べた。しかし、業界や企業文化、聞き手の立場によって、最適な情報量や表現は異なる。定石はあくまで指針に過ぎない。基本パターンを押さえたうえで、相手や状況を想像し、その場に最も適した資料を作る姿勢こそが重要なのである。
プレゼンテーションは「伝える」ための最後の砦
資料作成の最終的なゴールは、プレゼンテーションだ。プレゼンには多種多様な技法がある。立ち振る舞い、説明や質疑の区切り方、発表者の役割分担、議論のファシリテーションなど、挙げ始めるときりがない。ただ、本稿のテーマである資料作成術から外れてしまうため、ここでは、筆者が特に意識している二点に絞って紹介したい。
まずは事前練習だ。本番さながら、事前に通しで声に出すだけでも、プレゼンの質は劇的に高まる。これは至極当たり前の話であり、本当に重要なのは別のところにある。
ロジカルライティングやスライド作成は、頭の中での作業が中心となる。その結果、論理の誤りや話のつながりの悪さに気づかないままであることが多い。実際に声に出してみると、言葉に詰まる箇所が出てくるはずだ。そこには、論理の綻びや構成上の違和感が潜んでいる。
たとえば、論理が上手くつながっていない、つながってはいるが根拠が弱い、図表の配置が悪く話しにくい、そもそも説明しなくても良いスライドである、などの点だ。こうした気づきを起点に、あらためて資料作成に立ち戻ると良いだろう。

次に、スライド間の接続を補う一言が重要である。スライドは強力な伝達手段だが、弱点もある。それは、Wordなどの文書に比べて資料の枚数が多くなりがちな点である。どれだけ巧妙に資料を構成しても、スライドが進むにつれて聞き手が全体のストーリーを見失うことが懸念される。
そうした際に、口頭でスライド間をつなぐことが必要になる。たとえば、複数のスライドで事業課題を整理した後、解決の方向性を示す際、スライドを切り替えるタイミングで「ここまで課題を列挙してきましたが、どうすべきか。次のスライドをご覧ください」と一言添える。このような“クッション”を挟むだけで、聞き手の理解度は大きく向上する。些細に感じられるテクニックだが、スライドの弱点を補う上で効果的である。
おわりに:伝える力≠動かす力
ロジカルライティングとスライド作成は、主張を正確に伝えるための有効な手段だ。また、その技法が体系化されているため、多くの人が学びやすいツールでもある。
一方で、これらは決して万能ではない。資料を工夫することで聞き手の理解を深めることはできるが、その先にある共感の醸成や行動の喚起までできるかというと、話は別だ。
アリストテレスは、人を説得するためにロゴス(理知)、パトス(情熱)、エトス(人柄)の3要素が必要だと説いた。資料作成術が担うのは、このうちのロゴスが中心で、パトスはごく一部に過ぎない。情熱や全人格をもって相手を衝き動かす心構えが重要になる。