データセンター需要に電力が追いつかない――『BCGが読む経営の論点2026』から

生成AIをはじめとしたAIの需要は今後も増え続ける。これに応えるには、膨大なデータを高速で処理する高い計算能力と、安定した運用を提供するデータセンターが必須だ。そして、データセンターの大幅な増設とその稼働を支える電力の供給が欠かせない。しかし、どちらも実現は容易ではない。

BCGが読む経営の論点2026』(日本経済新聞出版)では、BCGでテクノロジー領域を専門とする長谷川 晃一とエネルギー業界の脱炭素領域に詳しい平 慎次が、データセンターや電力インフラの現状について解説している。その一部を要約して紹介する。

データセンターも発電所も立地やサプライチェーン、人材が不足

AIを活用するにも進化させるにも、データセンターは不可欠なインフラとなっている。実際にBCGの試算でも、世界的なAI活用の拡大に伴って、国内のデータセンター需要は2030年には現状の2倍、2040年には9倍にまで高まるとみている。

データセンターの運用は莫大な電力を消費する。前述の試算通りであれば、データセンターによって電力需要は10~20%押し上げられる。特に、自律的にタスクをこなすAIエージェントが今後さまざまなシーンに導入されていけば、24時間365日、人間が休んでいる間にも処理が行われることになる。それが途方もない電力を消費することは想像に難くない。

つまり、AIの利用増に十分に対応できるデータセンターを増設し稼働させるには、この爆発的な電力需要を満たすインフラもあわせて構築しなければならない。AIの活用、データセンターの増設、電源の増強は三位一体で考えるべき課題となっている(図表1)。インフラ面での制約によってAIの利用が制限されることになれば、日本は成長の機会を逃しかねない。

AI・データセンター・電力の需要は連動している。AI利用が増えると、データセンター・通信ネットワークの増強が必要になる。すると、データセンターに必要な電力を供給できる電源の増強が不可欠になる。

追いつかない電力供給とクリーンエネルギーへの要請

データセンターの増設と電源の増強は表裏一体の関係にある。BCGは、データセンターの電力需要が2040年には国内電力需要の1~2割近くを占めると試算している(図表2)。この需要をまかなうためには年間平均で10~20GW(ギガワット)の電力供給が必要となり、これは原子力発電所10~20基分に相当する。

BCGの分析では、データセンターの電力需要は、2040年には電力供給量の10%以上を占めることも想定される。

日本では2011年の東日本大震災から数年前まで、電力需要は減少傾向にあった。経済産業省・資源エネルギー庁によると、2013年に0.99兆kWh(キロワット時)だった電力需要は、2022年には0.90兆kWhにまで減少している。こうした変化を受け、発電所の容量は縮小・最適化が図られていた。同時に、脱炭素社会の実現に向け、既存設備の効率化や水素・アンモニア火力への転換、再生可能エネルギー(再エネ)の大量導入によって、複数の発電方法を効率的に組み合わせる電源ミックスへの変更も推進されてきた。

ところが、2022年のChatGPT登場とそれに続く生成AIの爆発的な普及を受け、電力需要は増加に転じた。また、インフレやウクライナ情勢、各国の脱炭素政策の転換により、水素・アンモニア火力や洋上風力のコストが想定上に高くなり、それがLNG(液化天然ガス)火力や原子力の存在感を大きくしている。そのLNG火力や原子力に関しては、発電事業者もサプライチェーンも不足している実態がある。

生成AI元年と呼ばれた2023年は、こうしたタイミングで到来した。そして活用の規模もユースケースの複雑性も、年を追うごとに拡大している。

従来の発電所計画を遂行するだけでは、AIの利用拡大に伴う電力需要の急増に対応しきれないことは明らかだ。BCGの想定では、将来的に求められるデータセンター増加分の半分程度の電力までしか対応できないというシナリオも考えられている。

先進する米国で起きている課題

日本だけではなく世界各国で、AIの利用拡大に伴いデータセンターと電力インフラの増強が必須となっている。国際エネルギー機関(IEA)は、2030年までに世界のデータセンターの消費電力量が2024年の約2倍の945TWh(テラワット時)に達すると想定している。この数字は、現在の日本の電力総消費量に匹敵する。

急速に拡大する世界のデータセンター市場のリーダーは米国だ。世界中のデータセンターの電力需要の約60%は、米国内に設置されているデータセンターが占めている。BCGは、2023~2028年に増加するデータセンターの電力需要の大半が米国で発生すると試算している。

米国が現在進行形で抱えている課題に対し、BCGはいくつかの解決策を提示している。これは早晩、日本も同様の事態に向き合ううえで、何かしらの手がかりとなるかもしれない。

最大の課題はやはり、電力の確保である。急増するデータセンターの電力需要に送電インフラの整備が追いつかず、電力供給がボトルネックと化している。この背景には、データセンターの開発期間(2~3年)と送電網整備期間(4~8年)との時間的ギャップや、30年規模の長期投資を前提に計画する電力事業者と、用途や負荷の変動など不確定要素が多いために比較的短いサイクルで運用するデータセンターという、計画対象期間の不一致がある。

こうした状況に対して、データセンター事業者は開発初期の段階から電力会社と協調して立地や整備計画を共有し、相互に現実的なインフラ設計を行う体制づくりが求められる。また、送電網の整備を促進するために、長期的な電力購入契約や債務保証を行い、電力事業者が安心して設備投資に踏み切れる環境を整えることも重要だ。さらに、電力インフラの共同所有モデルの導入や、複数の大口需要家が協力して需要を集約し、投資しやすくなるような新しい連携の形も模索の余地があるだろう。

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