不要になった衣類を価値に転換する 企業連携で循環型経済の実現へ

循環型経済を拡大するための5つの行動

大規模な循環型経済の仕組みが整えば、不要になった衣類のリサイクル率は30%を超える。また、再生繊維の原料としての市場価値は500億ドルを超え、約18万人の新たな雇用が創出される。ファッション業界全体でこのビジョンを実現し、収益性の高いシステムを構築するためには、前述の課題を横断的に解決する5つの行動を取る必要がある(図表2)。

ファッション業界における循環型システムを示した図表。循環型システムを拡大により、収益性向上、リサイクル拡大、廃棄衣類削減を実現できる

①再生繊維を使った製品の需要促進:一社だけではサプライチェーン全体を変革できないため、市場リーダーが協働し、高品質な再生繊維を使った製品への需要を拡大することが重要だ。特に中小規模のブランドは、共同調達などにより次世代素材への転換を進めやすくなる。

②廃棄衣類の回収拡大:需要の高まりに伴い、廃棄衣類を安定的かつ大量に確保する必要があり、既存の回収システムの拡大だけでなく新たな仕組みの構築が不可欠だ。人口密度やインフラ環境などの地域特性を踏まえた戦略を立て、既存の回収ネットワークや、ブランド・小売業者によるリサイクルプログラムを活用することもできる。

③選別工程の高度化:リサイクルに必要な大量の廃棄衣類を効率的に処理するためには、選別工程の高精度化と低コスト化が欠かせない。選別技術を比較した調査によると、AIやロボティクスによる自動化で、処理能力が最大90%向上し、1日の処理量はほぼ倍増したという。こうした技術革新により、要件に沿ったリサイクルが効率的にできるようになる。

④効果的なリサイクル技術の拡大:回収や選別だけでなく、リサイクル工程そのものを高度化・拡大することも重要だ。リサイクルを拡大するには、技術・インフラ・運用体制の改善が不可欠だ。多様な原材料に対応できる柔軟性が求められる。

⑤イノベーションへの投資の強化:循環型経済を構築するには、イノベーション投資も欠かせない。次世代リサイクル技術の開発に取り組む企業の中には、すでに初期段階の資金調達に成功している例もある。一方で、繊維リサイクル業界全体としては、産業規模に拡大するために必要な資金をまだ十分に確保できておらず、各事業者が連携して投資することが求められる。

企業連携で循環型経済への変革を推進する

各事業者の取り組みだけでは限界があるため、行政が主導し、業界全体で協働することが重要だ。企業と消費者の双方に経済的なインセンティブを生み出し、バリューチェーン全体で相乗効果を引き出すことが成功の鍵となる。

各国政府はEPR制度やその他の施策を推進することで、循環型経済への移行を加速させられる。オランダでは、2030年までに、前年度に国内市場に投入された繊維製品の75%を再利用またはリサイクルするよう企業に義務づけている。さらに、廃棄された繊維製品から得られる繊維原料の少なくとも33%を、新しい繊維から繊維へのリサイクル製品に組み込むことも規制として定めている。

また、企業は、パートナーシップや共同出資など他社との連携により、コスト削減や、設備投資の負担を分担できる。特に繊維メーカーは、リサイクル企業との提携や買収を通じて事業を統合することで、事業規模の拡大や安定供給の確保、品質と効率の向上を実現できる。

電子機器や化学といった異業種との連携も有効だ。専門的な知見、先進技術、既存のインフラを活用し、技術的な課題の克服が可能になる。異業種間の協業は、物流効率の向上や製品ラインアップの拡大にもつながる。たとえば機器・システム大手の独シーメンスは、AIを活用したソフトウェアを開発し、繊維の選別プロセスを自動化・最適化することを目指している。

さらに、消費者の行動も循環型経済の構築に大きく寄与する。消費者は不要になった衣類をリサイクル原料として提供するだけでなく、再生繊維を使った製品の利用も求められる。衣類のリサイクルをペットボトルのように簡単で手軽なものにすることで、消費者の活動を後押しできる。

バリューチェーン全体で行動変革し、循環型経済が実現すれば、業界全体の競争力を高めるだけでなく、企業が持続的に成長し、レジリエンス(回復力)を築くことにもつながるだろう。

原典: Spinning Textile Waste into Value(2025年8月)

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