不要になった衣類を価値に転換する 企業連携で循環型経済の実現へ

2024年に世界で廃棄された衣類の量は1億2,000万トンに達し、面積に換算するとオリンピック競技場200個分を超えた。毎年約1,500億ドルに相当する衣類が捨てられているが、そのうち4分の1を再利用するだけでも、世界の主要ファッション企業30社における年間の原材料コストを相殺できる。

だが、現在のリサイクルシステムはここまで膨大な量には対応できない。課題の解決に向け、ファッション業界でサーキュラーエコノミー(循環型経済)を推進する必要がある。循環型経済が実現すれば、リサイクル効率が向上し、再生繊維の需要が生まれることで廃棄衣類を処理する技術への投資も活発になるだろう。企業は消費者に再生繊維で作られた衣類を選んでもらい、不要になった衣類を適切に回収・処分できる仕組みを整えることが第一歩となる。

衣類廃棄は世界規模の課題

所得の上昇やトレンドの変化に伴い、消費者はより多くの衣類を購入するようになった一方、1着あたりの着用回数は減っている。その結果、世界の繊維生産量は2000年以降で2倍以上に増加し、廃棄の問題は一層深刻化している。2024年には、不要になった衣類の約80%が埋立か焼却処分され、再利用されたのは12%にとどまった。さらに、そうした衣類が新たな繊維として再生された割合は1%にも満たなかった(図表1)。

世界の不要衣類の増加を支援した図表と、不要衣類が再利用・リサイクルされる内訳を示した図表。不要衣類から新たな繊維への再生率は、リサイクルできる量の1%未満にとどまっている

米国では、2000年~2018年の間に衣類の廃棄が50%増加。このペースが続けば、米国内の埋立地は2038年までに容量が限界に達する見込みだ。先進国では、消費者が手放した衣類の多くを再販目的で発展途上国に輸出しているが、売れ残った衣類は最終的に現地の埋立地に廃棄されている。チリのアタカマ砂漠では、約6万6,000トンもの衣類が積み上げられ、衛星からも確認できるほどの規模となっている。

ファッション業界は廃棄まで責任が求められる

こうした中、ファッション業界は行動の見直しを迫られている。EUでは、各国政府が幅広いリサイクル関連法の整備に乗り出している。特に、「拡大生産者責任(EPR)」の制度では、生産者の責任を衣類を捨てる段階まで広げ、製品が販売される地域での回収・リサイクル費用を負担することを求めている。また、企業にリサイクルしやすい製品設計や再生素材の活用を義務づける追加規制も検討しており、米国、カナダ、チリなどでも同様の動きが見られる。

アディダスやニューバランス、プーマなどのブランドは、すでに「繊維から繊維へのリサイクル」に投資している。これらの企業は、持続可能性目標の達成や次世代の原材料の調達先確保に加え、将来の事業リスクに備えるための体制を積極的に整えている。多くの企業がこうした動きに追随するとみられ、2030年までに再生繊維の需要が供給を3,000万〜4,000万トン上回ると予測している。

衣類の廃棄削減には多くの障壁がある

一方、現在の繊維バリューチェーンでは、不要になった衣類の回収とリサイクルを妨げる多くの障壁が存在している。特に以下の3つが挙げられる。

第一に、再生素材は繊維の品質や供給量、既存のサプライチェーンへの組み込みやすさなどの懸念が大きい。コスト面でも、再生ポリエステルは通常の2倍以上の価格になることもあり、経済的にも実務的にも魅力に欠ける。

第二に、不要になった衣類を管理する仕組みは、再販売向けに構築されており、リサイクルに必要な選別体制が整っていない。選別工程は主に手作業で進められており、生地の素材や色、リサイクルの可否などの分類や、ボタンやファスナーの除去は十分に行えない。さらに、多くの消費者は衣類を適切に処分できておらず、異素材が混ざり合うことも多い。こうした混在物は仕分けが難しく、最終的に「繊維から繊維へのリサイクル」に利用できる衣類は全体のわずか7%にとどまる。

第三に、現行のリサイクル技術の大半は単一素材の処理しかできず、天然繊維と合成繊維を組み合わせた素材は十分に処理できない。現代の多様な衣類を処理できる新技術と、コストと品質の両面で競争力のある再生素材を生み出すことが不可欠だ。

循環型経済を構築するために必要なアクションとは?

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