【COP30】環境に優しい製品の需要創出を 潜在顧客の把握でコストを成長に転換する

GX政策は最終製品や消費行動まで広がっている

こうした課題を踏まえ、中間とりまとめでは施策の方向性として、①最終需要の喚起、②企業連携の推進、③脱炭素の中心となる企業による協働の推進、④中堅・中小企業の脱炭素支援の4本柱を挙げている。これまで素材メーカー中心だったGX政策は、最終製品やその先の消費行動まで射程を広げ始めている。

具体的には、グリーン製品を評価・表示する仕組みの整備、製品・サービスの二酸化炭素(CO2)排出量を指すカーボンフットプリント(CFP)の算定支援、一次データの蓄積と企業・業界横断でのデータ連携、モデル事業の推進などが検討されている。各社のCO2排出削減努力を可視化し、政府が「グリーン製品」として認定する仕組みの構築が進められる方針だ。環境省は、グリーン製品を高く評価する制度的措置も視野に入れており、2025年度内に詳細を検討し始める予定だ。

だが、認定だけでは市場は動かない。政府もその点を理解しており、民間のマーケティングを後押しするため、官民協働のモデル事業も立ち上げようとしている。

脱炭素は企業にとって新たな市場設計のチャンス

サプライチェーン全体での脱炭素化に関心を持つ企業は、こうした政策動向にアンテナを立てることはもちろん、脱炭素を「ただ規制に対応する」という視点ではなく、「新たな市場設計のチャンス」ととらえることが重要だ。そのために企業が取り組むべきことは大きく3つある。

①グリーン価値(CO2の排出削減量など)の可視化

自社の主要製品ごとにカーボンフットプリント(CFP)を算定し、自社の脱炭素施策が製品単位でどの程度のCO2排出削減につながるかを定量的に把握すること。CFP算定のノウハウ獲得、仕組み化は一朝一夕にできるものではない。

②価格上昇の定量化と価格弾力性の分析

製品をグリーン化することで起きる価格上昇を定量的に把握するとともに、価格弾力性を分析すること。BCGの試算では、自動車やジーンズなどをバリューチェーン全体で完全に脱炭素化したとしても、最終製品のコスト上昇は数%程度にとどまる。また、通常の製品との価格差を受け入れ、購入する意思のある消費者層を一定程度確保できる製品もある。「グリーン製品はコストが高い」というイメージに囚われすぎず、こうした事実を把握し、消費者への影響度を正しく理解することが重要である。

③ターゲットを絞ったプライシング戦略の実現

環境価値を受け入れる顧客層を見極め、プライシング戦略を再設計すること。「環境価値を重視し、価格上昇を受け入れる層」「環境価値を認識する一方、価格上昇分の負担は避けたい層」「環境に価値を感じない層」を明確に区分した戦略立案が求められる。BCGの支援実績からの示唆の一部は、書籍「BCGプライシング戦略」(東洋経済新報社)でも論じている。

これは川下の最終製品メーカーだけの課題ではない。川上・川中に位置する素材・中間財メーカーも、「顧客が自社のグリーン製品を採用してくれない」と嘆くだけではなく、自社製品を使った最終製品の需要を分析し、顧客企業に提案する積極的な姿勢が求められる。

日本のGXは、政府の支援・先行投資から、市場における「最終製品需要の創出」の段階に移っている。すべての消費者が脱炭素を志向するわけではないが、脱炭素に価値を感じてグリーン製品を選び取る層を見極め、その顧客需要を的確に掴み、応える。この動き方が日本企業のGXを「コスト」から「成長」へ転換させる鍵となる。

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