スタートアップ支援策を起爆剤に 経済活性化とイノベーション創出へ

今後の政策の方向性

5か年計画の後半を迎えたいまこそ、効果的な政策を展開し、このモメンタムを加速させるべきだ。単に「制度がある」のではなく、「制度を機能させる」段階へと重心を移すことがポイントだ。

具体的には、既存の政策を評価し、調整すると良いだろう。施策の影響度、研究から実証、量産までの進捗、海外資金や人材の流入比率――こうした現場の数字を省庁横断で“見える化”し、翌年度の制度設計や予算に反映させる。場合によっては、このタイミングで予算を再配分することも求められる。

関連税制については、国際的に見劣りしない水準にするのが望ましい。まず研究開発税制では、スタートアップが赤字期でも投資できるよう、海外では一般的な控除の繰り越しや還付などの選択肢を残す形に改めたい。また、国外からの資金流入を妨げないよう、投資組合(ファンド)に出資する海外投資家への課税を見直す必要もある。

流動性の課題に対しても、スタートアップ経営の複線化に取り組むべきだ。まずはスタートアップやVCに有効なエグジット手段の一つとしてM&Aを意識させ、必要に応じてケイパビリティー(組織能力)を補うことが必要だ。ガイダンスの整備やアドバイザリーの拡充のほか、象徴的な成功事例を作り、IPO一辺倒の意識を変えていくことも有効だろう。投資家向けには、「オープンイノベーション促進税制」の継続・対象拡大、「のれん」の会計処理ルールの見直し、小規模M&Aの迅速な審査などを通じた手続きの負担減が求められる。

最後に、海外の投資家や経営人材を“一本釣り”で呼び込む仕組みを強化する。日本に興味を持つ可能性の高い人材をリストアップし、個別に声を掛ける。また、ビザや規制、支援制度を英語で一括案内できる窓口を設け、丁寧な伴走支援を行うことも有効だ。

スタートアップ経営のポイント

政府による支援の枠組みが整いつつある今こそ、スタートアップにとって事業拡大の追い風だ。スタートアップ経営者には、ぜひ以下を参考にしながら事業を運営してほしい。

今の日本には、補助金や実証支援、海外投資家の誘致など、創業から成長までをカバーする公的支援メニューが豊富に用意されている。これらを最大限に活用するには、経営直下に政策担当者を置くのが有効だ。自社に適した支援策をいち早く把握し、申請や報告のスケジュールを管理する。そして投資家や省庁、支援機関にいつでも提出できるよう資料を常備しておくことが望ましい。

また、日本のスタートアップはエグジットの手段としてM&Aを積極的に検討しない傾向にあるが、多額の設備投資が必要な事業や規制産業では、事業会社の傘下に入ることで早期に事業拡大できる場合もある。資金もエクイティ(株式)に偏らず、将来の販売契約を担保にしたデット(負債)や、顧客の前受金や成果連動型の共同開発契約などを組み合わせ、株式の希薄化を抑えながら事業の成長の確度を高めることができる。

さらに、ディープテックの多くは言語に関係ない技術で勝負するため、「国内で十分に伸ばしてから海外へ」と考えていては機会を逃してしまう。創業初期から英語を使った運営に切り替えておくことで、海外の顧客や投資家が声をかけてくる機会も増える。ボードメンバーに国際展開に対応できる人材を迎え、早期に海外展開を目指せると良いだろう。

スタートアップが今の追い風を最大限に生かすことで、自社の成長だけでなく、日本におけるイノベーションの創出や経済の活性化につながることを願う。

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