世界の家計金融資産は前年比8.1%増、日本は円換算1.9%増の低成長 BCG調査

2024年末の世界の家計金融資産は、前年比8.1%増の305兆ドルで、過去最高を記録したことがボストン コンサルティング グループ(BCG)の調査で分かった。このうち日本の家計金融資産は14.7兆ドルで、米ドル換算では円安を背景に5.2%減のマイナス成長。円換算でも前年比1.9%増の低成長となった(図表)。
BCG は、家計資産の規模やウェルスマネジメント(富裕層向け運用サービス)業界の動向をまとめたレポートを毎年発表しており、今年で25 回目となる。
地政学リスクを背景に、世界のクロスボーダー・ウェルスは8.7%増
レポートでは今後、世界の資産形成をアジア太平洋地域が牽引すると推測している。日本を除くアジア太平洋地域では2029年までに家計金融資産が年平均9%で成長すると予測されており、北米(4%)、西欧(5%)、日本(5%)を上回る見通しだ。
2024年の世界のクロスボーダー・ウェルス(国外に預ける資産)は前年から8.7%増の14.4兆ドルとなり、過去4年間の年平均成長率(6.3%)を大きく上回った。この背景には、地政学リスクの高まりから、資産を地理的に分散させたり、より安定した国・地域に預けたりする需要が増していることがある。クロスボーダー・ウェルスの資産集約拠点としては、シンガポール(11.9%増)とアラブ首長国連邦(UAE、11.1%増)が特に急速に成長。2029年までに新たに形成されるクロスボーダー・ウェルスの3分の2が、スイス、香港、シンガポールに集約されると予測している。
生成AIによる新規開拓営業に成果も
レポートでは、業界をめぐる状況について次のような指摘をしている。
- 2024年のウェルスマネジメント(富裕層向け運用サービス)における運用資産残高は前年比13%増と、全体の家計金融資産の伸び(8.1%)を大きく上回った。しかし、金利環境の変化によりマージン(利益)が圧迫された企業が多く、収益の成長率は7.1%にとどまった。
- 市場環境や新規人材採用などの外部要因によらない自律的な成長(オーガニック成長)の観点では、ユニバーサルバンク(預金業務から運用まで幅広い金融サービスを手がける大手銀行)がウェルスマネジメント特化型(ピュアプレー)企業を上回る成果をあげた。ユニバーサルバンクにおける運用資産の成長の32%がもともと在籍しているアドバイザーによるもので、これは特化型企業における割合(15%)の2倍に相当する。
- 見込み顧客の開拓における生成AIの導入も進展しており、先進企業の中には、見込み顧客獲得数が5倍、実際の契約・購入に至る割合が2倍に改善した事例もある。加えて、収集したデータを活用した効率的な見込み顧客管理システムを導入した企業を導入した企業では、収益が最大15%増加し、生産性が20~30%向上したケースもあった。

レポートでは、成長を推進したい企業にとって重要なポイントとして、「ブランドの差別化」「AIエージェントを活用した新規顧客獲得」「収集データを活用した金融商品推奨システム」「次の顧客であるデジタルネイティブ世代との関係性構築」の4つを挙げている。
レポートの共著者でBCGチューリッヒ・オフィスのマネージング・ディレクター&シニア・パートナー、Daniel Kesslerは「今後は、AIを活用した見込み顧客の開拓、サービス利用開始時のサポートの個別最適化、そして生産性を高めるデジタルツールを取り入れた企業こそが、次の成長の波を捉えることができるでしょう。資産は世界中で増えているが、それをどう取り込むかが、ウェルスマネジメント企業にとっての最大の課題だ」とコメントしている。
調査レポート:Global Wealth Report 2025: Rethinking the Rules for Growth(2025年6月)