日本は生成AIの業務活用、AIエージェント導入ともに出遅れ BCG調査

※本記事のサムネイル画像はAIで生成したものです
ボストン コンサルティング グループ(BCG)が行った世界各国の職場におけるAI活用に関する意識調査によると、生成AIを日常的に使用する人の割合は世界平均で7割を超えた。また、多くの人がAIエージェントを今後の仕事の成功に不可欠と見ていることもわかった。一方、日本はAIを業務で活用する従業員の割合も、AIエージェントの導入率も世界に後れをとっている。
日本の日常的な生成AI利用率は世界平均から21ポイント低い
BCGは、日本を含む世界11の国・地域で、経営幹部から従業員まで1万600人以上を対象に、AI活用に関する考え方、導入実態などについて尋ねた。調査は今年で3回目となる。
調査の結果、全回答者の72%が日常的にAIを使用しており1、世界全体としてAIの導入は進展したといえる。しかし、職位別に見ると、一般従業員のうち日常的にAIを使用する人の割合は51%にとどまり、昨年の52%から横ばいの結果となった。また、日常的にAIを使用する人の割合はインド(92%)、中東諸国2(87%)などで高く、グローバルサウスの国々での利用率は引き続き高い水準にある。対して、日本では51%と大きく差がついた(図表1)。

日本のデータを職位別に見ると、経営層のうち日常的にAIを利用する人は60%で、世界平均からマイナス25ポイントと最も大きく差が開いている。次に差が大きかったのは一般従業員の33%で、世界平均より18ポイント低い結果となった(図表2)。
一方、自動化による雇用への影響に対する懸念も大きく、全体で41%の回答者が「今後10年で自分の仕事がなくなる可能性がある」という不安を抱いていることが明らかになった。特に利用率が上位の国ほど、この傾向は強い。ただし、日本はAIの利用率が高くないにもかかわらず、失職の恐れを感じている人の割合が比較的高い結果となっている(図表3)。
企業がツールを提供しなければ「シャドーAI」によるリスクも
調査をまとめたレポートでは、AI活用の促進にあたり、重要な施策として「十分なトレーニングの提供」「適切なAIツールの提供」「経営リーダーの明確な支援」の3つを挙げている。特に、企業が適切なツール提供をしない場合、従業員が無断で業務にAIツールを使用する「シャドーAI」で情報漏洩などのリスクにさらされる可能性もあり、注意が必要だ。
十分なトレーニングの提供
AIの使い方について「十分なトレーニングを受けた」と感じている回答者は世界平均で36%、日本ではわずか12%にとどまった。特に、対面式かつコーチに助言を受けられる形式で5時間以上トレーニングを受けた人は、AIを日常的に活用する可能性がより高まる。
適切なAIツールの提供
全回答者の半数以上(54%)が「正式に許可されていなくてもAIツールを使う」とした(図表4)。特にZ世代3やミレニアル世代4は、会社の許可がなくてもAIを利用しようとする可能性が高い。このようなシャドーAIは、企業にとってセキュリティリスクの増大を招くと警鐘が鳴らされている。
経営リーダーの明確な支援
一般従業員のうち、「自社の経営層はAIの使用に関して十分な指針を示してくれている」と感じている人はわずか25%となった。日本の割合は、それをさらに下回る11%となっている。一方で、経営リーダーが積極的に関与している組織では、AIの利用率も、AIの影響に対し前向きな従業員の割合も明らかに高い傾向がある。
日本はAIエージェントの導入も出遅れ
調査では、回答者の4分の3以上がAIエージェント(自律的なタスクマネジメントが可能なAI)が今後の成功に不可欠だと考えている。しかし、現時点でAIエージェントが業務フローに統合されていると回答した人の割合は世界平均で13%。また、日本では7%と出遅れた結果となった(図表5)。 また、AIエージェントの仕組みを理解していると答えた人は全体の3分の1、日本では13%にとどまっている。
一方で、AIエージェントの仕組みについて理解している人ほど脅威を感じる割合は低くなり、AIエージェントを「競合」ではなく「協働するパートナー」として捉えていることも明らかになっている。
AIによる本質的な変革へと踏み出そうとする経営リーダーに向け、調査レポートでは「AI活用によって生まれた価値を可視化する」「人材投資を通じて業務フローを再設計し、AIの価値を最大限に引き出す」「AIエージェントについてA/Bテストなど定量的な検証を徹底し、経験曲線を加速させる」といった要件を提示している。
BCGで日本における生成AIトピックのリーダーを務めるマネージング・ディレクター&パートナーの中川 正洋は次のように述べる。「日本企業においても積極的にAI活用を進める姿勢は見られるものの、グローバル企業がより速いスピードで活用を推進しており、徐々に差が開き始めている。また、生成AIの活用環境を整備しても、実際の活用が進まず苦慮している企業も少なくない。日本においてAI活用が進んでいる企業は、経営トップのサポートや後押しと、現場レベルでの成功事例の確立という両輪がうまく機能している。世界的な動きも踏まえると、AIを日常的に活用するだけでなく、業務プロセスや顧客への提供価値を変革するような取り組みにいかにつなげられるかが鍵といえるだろう」
調査レポート: AI at Work 2025: Momentum Builds, But Gaps Remain (2025年6月)