エネルギー転換を加速する鍵は「需要側施策」 住宅用太陽光やEVなど

2024年11月のCOP29(国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議)でも引き続き重要テーマとなった「エネルギー」。化石燃料由来のエネルギーから再生エネルギーへの転換は、これまでのところエネルギー会社など供給側の努力によって主に進められている。しかし、さらなる加速のためには、住宅用太陽光発電やEV、ヒートポンプなどを通して、顧客企業や消費者といった「需要側」に再エネを取り入れてもらうことが重要だ。

世界のエネルギー消費は再エネ、石油・石炭由来ともに増加

パリ協定が採択された2015年以降、世界全体の一次エネルギー消費は63エクサジュール1増加した(図表1)。増加分のうち32エクサジュールは低炭素発電(水力・原子力)や再生可能エネルギー(風力・太陽光など)由来の消費となっている。一方、化石燃料由来の消費も計31エクサジュール増加した。

2015年以降、世界全体の一次エネルギー消費の推移を表した図。再エネは増加しているが、石油・石炭由来のエネルギー消費も増加している

エネルギー転換を大幅に加速させるためには、エネルギー会社などが供給するエネルギーを再エネ化・低炭素化するのに加え、需要側である顧客企業や消費者に対して脱炭素・低炭素の製品やサービスの経済的またはその他のメリットを訴求し、取り入れてもらうことが重要だ。

住宅用太陽光発電、EV、ヒートポンプが需要側施策の代表例

需要側施策によるエネルギー転換は、「住宅・商業ビル(データセンター含む)」「輸送」「低~中温の熱を使用する製造業2」の3つの分野で早期にインパクトをもたらす可能性がある。理由として、脱炭素化に必要な技術がすでに商業的な規模で利用可能であること、政府の政策やインセンティブが整備されていることなどが挙げられる。これらのセクターは、世界のエネルギー需要の60%、温室効果ガス排出量の3分の1を占めている。

需要側施策によるエネルギー転換の加速化の一例が、インド・グジャラート州における住宅用太陽光発電だ(図表2)。グジャラート州の人口はインドの総人口の5%にもかかわらず、国全体の住宅用太陽光発電の67%をこの州が占めている。中央政府からの補助金に加え州独自の買い取り制度により消費者にとっての投資コストが低減されたこと、不安定な電力供給網からの独立や電気料金の削減、資産価値の向上といったメリットが消費者のニーズに合致したことが、普及率を高めた主な要因だ。

2024年の各国・地域のエネルギーミックスにおける住宅用太陽光発電の割合を示した図。インド・グジャラート州は太陽光発電の普及率が高い

インドの太陽光発電に加え、欧州・米国における電気自動車、欧州におけるヒートポンプが、成功しつつある需要側施策の代表例だ。これらの技術による2035年までの温室効果ガス削減量は、2023年の世界のエネルギー関連排出量全体の4%に相当する計1.5ギガトン(CO2換算)にのぼる可能性がある(図表3)。

インドにおける住宅用太陽光発電、欧州・米国におけるEV、欧州におけるヒートポンプによって2035年までに削減される温室効果ガス排出量の予測

コスト面の競争力と付加価値、パフォーマンスが顧客を引き付ける

BCGは、65件以上の革新的なエネルギー関連製品の調査にもとづき、サステナブルな製品・サービスを需要側(顧客企業・消費者)にとって魅力的なものにする4つの要素を特定した。

  • 優れた経済性: 初期費用の安さや総所有コストの低さ、リセールを含む価値の保証など
  • 高い製品性能: 現行の製品にはない機能がある、壊れにくい、アップデートが容易であるなど
  • 卓越したユーザー体験と利便性: 設置にストレスがないことや、製品の購入から利用中、廃棄まで一貫してサービスの提供が受けられること
  • ポジティブなブランドイメージとストーリー: 専門用語を避けた分かりやすいコミュニケーションにより、サステナビリティと強くリンクしたブランドイメージを伝える必要がある

BCGロンドン・オフィスのマネージング・ディレクター&パートナー、Ekaterina Sychevaは次のように述べている。「顧客は、グリーンな製品やサービスを強く求めるのと同時に、サステナビリティだけではない魅力的な提案も欲している。この需要を取り込むために、企業は、コスト面の競争力に優れ、高い付加価値があり、卓越したパフォーマンスを発揮する製品やサービスをつくり出す必要がある」

調査レポート

Turbocharging the Energy Transition by Boosting Customer Demand

  1. エネルギー量の単位で、10の18乗ジュール ↩︎
  2. 低~中温の熱を使用する製造業は、自動車製造業、耐久消費財製造業など。高温の熱を使用する鉄鋼業、石油化学工業は含まない ↩︎