8割が「物価上昇に比べて給与が上がっていない」――BCG消費者心理調査

生活必需品の物価上昇が日々話題となっている。総務省の発表によると、2023年の全国消費者物価指数は生鮮食品を除く総合で前年比3.1%、2年連続で上昇した。物価上昇に伴い、消費者の行動はどう変化しているのだろうか。BCGが2023年10月、日本全国の18歳以上の消費者8,000人以上を対象に実施した「BCG消費者心理調査――物価上昇の影響を読み解く」から、その実態を紹介する。

7割超の消費者が値上げを実感

電気・ガス・水道などの光熱費や家賃を含めた住宅関連、食品・飲料、旅行・移動、エンタメに至るまで、ほとんどのカテゴリーについて7割超の消費者が「直近で価格が上がったと感じる」と回答。値上げを実感している消費者の半数程度が、より低価格の商品に切り替える、購入する回数を減らすなど「消費行動を変えた」と答えた。

前回調査(2022年実施)では、7割前後と多くの消費者が値上げを実感しながらも大半が「変わらず購入している」と回答したことを踏まえると、行動を変える人の割合が増えていることは注目すべき変化と言える。消費行動を変えた人の割合は特に食品・飲料(61%)、アパレル・ファッション(60%)、エンタメ(59%)、光熱費を含む住宅関連(49%)で高かった。

物価上昇に賃上げが追いつかない日本

物価上昇と給与水準を比較した際の実感や、世帯年収ごとの収入の変化についても調査した。3割超の人は賃上げを実感しているものの、物価上昇に比べて給与水準が上がっていないと考えている人が約8割を占めている。

2022年以前と比較した収入の変化を世帯年収ごとに尋ねたところ、世帯年収が低い層では収入が減少した人の割合が高く、高年収層ほど収入が増加した人の割合が高いという結果となった。収入が減少した割合は、世帯年収が300万円以下の層で33%と最も多く、次いで300万~800万円の層では25%、800万~1,500万円の層では18%、1,500万円以上の層では13%となっている。一方、収入が増加した割合は300万円以下の層で5%、300万~800万円の層で9%にとどまったが、800万~1,500万円の層では15%、1,500万円以上の層では19%に達している。収入の増減は、世帯年収によって二極化が進む傾向にあるようだ。

過半数が状況に応じた価格の変化を「受け入れられる」

「シニア割引」「曜日によって価格が異なる」「同じブランドの同じ食品でも、かかる輸送費/人件費によって価格が違う」など状況に応じた値付けの変動を、過半数の消費者が「受け入れられる」と感じていることも分かった。

この結果を踏まえると、企業は一律の値上げ・価格設定だけでなく、地域や条件に応じた最適な値付けを検討する必要がありそうだ。それには、顧客のロイヤリティ1や購買履歴を考慮したポイントの付与、値引きクーポンの発行などで、実質的な値段を変えるといった施策も含まれる。

日本企業は「一物一価」の見直しを

調査を担当したBCG東京オフィスのマーケティング・営業・プライシンググループの紀平 啓子は、従来日本企業で値付けの基本とされてきた「一物一価」の見直しを提言する。「プライシング(価格設定)は国内外の多くの企業で、戦略上の重要課題となっている。特に日本では、物価上昇に賃上げが追いついていない実感が強まり、価格に対する消費者の価値観まで変わってきていると感じている。これまでは一物一価を是としてきた日本企業でも、より複雑で、消費者にとって合理的な価格のあり方を検討する必要が出てくるだろう。価格設定・コスト削減・賃上げの新たなバランスを見つけることが求められている」と語る。

調査レポート: BCG消費者心理調査――物価上昇の影響を読み解く(2024年1月)

調査概要:
本調査は、2020年から日本を含む全世界で実施してきた新型コロナウイルス感染症拡大による消費者意識の変化に関する調査「BCG COVID-19 消費者心理調査」(全9回)の内容を引き継いでいる。2023年に新型コロナが5類に移行したことを受け、今回は物価上昇に伴う消費者行動の変容などを中心に分析した。

  • 日本全国の18歳以上の男女を対象にオンラインで実施
  • 実施時期 2023年10月27~30日
  • 回答者数 8,373人

  1. 顧客が企業や商品・サービスに対して抱いている信頼や愛着 ↩︎