ホルムズ海峡の混乱はどこまで波及するか 影響を受ける地域・業界と企業の対応策

現在、ホルムズ海峡における航行の混乱は多くの企業に直接的・間接的な影響を及ぼしている。同海峡は世界の物流の要衝であり、通常、週に約900隻の船舶が通過し、世界の原油輸出の約20%を担っている。

企業の収益やキャッシュフローが悪化

今回の混乱は、紛争の人道的・社会的側面にとどまらず、エネルギーや輸送、防衛をはじめ、幅広い産業に波及している。混乱が長期化するほど、対象となる業界は拡大し、回復にも時間を要する可能性が高い。

企業の収益性やキャッシュフローには、主に以下の変化が生じると想定される。

  • インフレの進行や景気減速により、需要が弱まり売上の伸びが鈍化する可能性がある
  • サプライチェーンの寸断や輸送コストの上昇によって原材料コストが増加し、営業利益率が圧迫される
  • 安全対策や代替手段の確保に伴い、運営コストが増加する
  • 需要減少や操業制約により、設備や資産の稼働率が低下する可能性がある
  • 借入環境の悪化により、資金調達が制約される可能性がある

多くの企業はこれらの影響を複合的に受ける。また、影響の大きさは各国のホルムズ海峡への依存度やレジリエンス(回復力)によって大きく異なる。

金属、化学などの業界にも影響

現時点では、中東諸国に加え、以下の国々でも輸入への支障が顕在化している。

  • インド、パキスタン、ケニア、タンザニア、モーリタニアなど:輸入の10%以上に影響
  • 日本、中国、韓国、南アフリカ、ナミビアなど:輸入の5〜10%に影響

特に南アジア、東アジア、アフリカはホルムズ海峡への依存度が高く、一部の国では労働時間の短縮や燃料使用制限などの対応がすでに始まっている。

業界・分野別に見ると、特に今回の混乱による影響が大きいのは以下の通りである。

①石油

世界の石油供給の約20%がホルムズ海峡を通過している。代替ルートや戦略備蓄の放出によって約半分は補完可能とされるが、それでも供給の不足幅は歴史的規模に達する見込みだ。

価格面での影響は世界的に広がる一方、供給不足は特にアジアおよびアフリカの輸入国で顕著となる可能性が高い。また、上流・下流を含むエネルギーインフラの被害状況が不透明であり、将来の供給見通しには大きな不確実性が残る。

②液化天然ガス(LNG)

世界のLNGの約17%が同海峡を通過している。石油と異なり代替ルートは存在せず、既存の液化設備も約91%の稼働率に達していることから、供給増による補完余地は限定的である。主な影響はアジアの輸入国に集中し、欧州もスポット市場(短期取引市場)を通じて影響を受ける可能性がある。

③海運

通常、1日あたり100隻以上の船舶がこの海峡を通過しており、エネルギー、原材料、鉱物などの輸送を担っている。現在は遅延やコスト増加に加え、安全リスクの上昇が顕著であり、保険料も大幅に上昇している。従来は船舶価値の0.125%以下であった保険料が、直近では最大5%に達するケースも見られる。

④航空

中東の空港の2025年の利用者数は約4億5,000万人に達した。現在、多くの空域が制約を受けており、迂回、遅延、欠航、コスト増が発生している。航空貨物では世界の輸送能力の約20%が影響を受けており、特にアジア・欧州・アフリカ間の物流回廊への影響が大きい。

加えて、ジェット燃料は運航コストの約25%を占めており、その価格上昇が収益性に影響を及ぼしている。

⑤金属

中東はアルミニウムの主要生産地域であるが、ホルムズ海峡の制約により原料であるアルミナの供給が制限されている。

中東のアルミニウム輸出の約80%は一次アルミニウム(地金)であり、米国、トルコ、日本が主要な輸入国である。2026年はもともと需給が逼迫する見通しであり、供給減少により市場は一段と引き締まり、特に欧州とアジアで価格が上昇している。

⑥化学・石油化学

中東は石油化学製品の主要輸出拠点であり、ヘリウム、ポリエチレン、メタノール、肥料などで世界の供給の10〜30%を占める。特に肥料は世界供給の約33%が同海峡を通過しており、封鎖が長期化した場合、スーダン、タンザニア、スリランカ、オーストラリアなどで農業への影響が懸念される。

また、ナフサやLPGといった原料の供給制約がコスト上昇を招き、地域間の競争力にも変化をもたらしている。北米は比較的影響が小さい一方、日本や韓国などのアジアの輸入国は生産設備の稼働率を引き下げざるを得ない状況にある。

企業と経営リーダーに求められる対応

今回の混乱は、現時点では特定の業界で顕在化しているが、状況が長期化すれば、消費財や金融など他の業界にも波及する可能性が高い。

企業はまず、当該地域で業務に従事する、または渡航する従業員の安全確保を最優先とすべきである。その上で、地政学的な知見を活用し、混乱の持続期間や波及範囲を見極める必要がある。なお、ホルムズ海峡の混乱の期間は、中東全体の紛争の時間軸とは一致しない可能性がある点にも留意が必要だ。

経営リーダーがとるべきアクションは以下のとおりである。

<短期的に求められる対応>

  • 影響の可視化:直接的・間接的な影響を把握し、バリューチェーン全体でのリスクを特定する
  • シナリオ分析の実施:複数のシナリオを想定し、事業への影響と対応策を事前に検討する
  • オペレーションと財務の安定化:在庫の積み増しや代替調達の確保、キャッシュフロー管理の強化を進める
  • 全社横断の意思決定体制の構築:機能・事業部門を横断した統合的な意思決定を可能にする司令塔機能を整備する

<中長期的に求められる対応>

  • 事業戦略とオペレーティングモデルの見直し:製品ポートフォリオや顧客戦略、事業構造への長期的影響を再評価する
  • サプライチェーンの再構築:リスク分散や地域分散を進め、構造的な耐性を高める

不確実性の高い地政学環境が続く中、企業は単なるリスク回避にとどまらず、構造的な競争力の強化に向けた対応を進める必要がある。適切なシナリオに基づき迅速に行動する企業こそが、この混乱を乗り越え、将来の成長機会を確実に捉えることができるだろう。

原典:The Hormuz Strait: Which Sectors Are Impacted Most? (2026年3月)

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