エネルギー大変革時代に日本企業は“賢い需要家”を目指せ――『経営の論点2024』から

化石燃料から再生可能エネルギーへの転換は、気候変動対策として重要であることは誰もが知っている。一方、ロシアによるウクライナ侵攻以来、資源価格の高騰やエネルギーの確保が世界的に大きな課題として浮上している。こうした状況下で、再エネは環境と経済課題の両方を解決する切り札になりつつある。

何もせずに安価なエネルギーが簡単に手に入る時代は終わった。エネルギー激変時代をどう乗り越え、チャンスとするか。『BCGが読む経営の論点2024』(日本経済新聞出版)では、気候変動・サステナビリティグループの日本リーダー、丹羽 恵久と、同グループの平 慎次が、日本企業に求められる取り組みを解説している。その一部を紹介する。

欧州で広がる再エネの直接購入契約

このエネルギー問題を考えるときに鍵になるのが再生可能エネルギーだ。特に欧州では再エネの発電コストが当初の予測を超えて下がり、普及のスピードも速い。石油やガスなどの従来エネルギーの価格が不安定になり調達コストがかさむ中、太陽光、風力などの再エネは自国で発電設備を造ってしまえば燃料は不要なので、長期に安定供給が見込める。

欧州の取り組みは、日本より10~20年先行しているとみられる。例えば、独自動車大手BMWはすでに2017年に欧州での使用電力を100%再エネに切り替えている。自動車部品サプライヤー大手のボッシュも2020年には自社拠点のカーボンニュートラルを達成している。

さらに、需要家企業と供給企業との直接購入契約である「CPPA(Corporate Power Purchase Agreement)」を結ぶ動きが活発化している。従来の化石燃料由来の電力では、燃料となる石油やガスの価格変動リスクが大きいので、電気料金を単年契約とすることが一般的だった。しかし、再生エネルギーは比較的安定した供給が見込めるため、固定単価での長期複数年契約(5~20年)が可能になり、供給側・需要側双方にメリットがある。

欧州の調査会社の分析などを基にすると、ドイツでは需要の増加に供給が追いつかず、2030年時点で再エネCPPAが供給不足に陥ると予測される。特に上場企業では60%以上が再エネCPPAを希望しているというデータもある。

日本が遅れた3つの理由

一方で、日本は欧州に大きく遅れをとっている。それには主に3つの理由がある。1つ目は、欧米のように再エネのコストが下がりにくいこと。これは日射量や風況が弱いなど再エネ稼働率が低いことが大きな要因となっている。

2つ目は、他国と送電インフラの連携ができないこと。島国なので、国境を越えた電力融通ができず、自国内で完結せざるを得ない。そのため、再エネ、火力、原子力などそれぞれ特徴が違う複数の電源のエネルギーミックスで対処せざるを得ない。

3つ目に、日本特有の事情として、2011年の東日本大震災および福島原発事故がある。事故以前、日本は“原子力ルネッサンス”のもと、再エネとは別の手段で低炭素化を実現していたが、原発事故が起こると、首都圏は電力不足に陥り、計画停電なども行なわれた。その解決のために石炭やLNG(液化天然ガス)による火力発電の増設が進められた。世界的なエネルギーシフトの流れに逆行するかたちとなったが、現実を眼の前にしてやむない選択だった。

こうした状況の中、もちろん日本も行動を起こしてはいる。2022年に7月には、岸田首相が立ち上げた「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」の第1回会合が開催された。エネルギーの安定供給のための具体的な方策と、脱炭素に向けた今後10年のロードマップを策定するなど、官民挙げての取り組みが進んでいる。

GX実行会議が採択した基本方針では、諸外国に対する遅れを挽回するためにも、今後10年で官民150兆円規模の脱炭素投資が必要であり、そのうち20兆円は国の財源を投入するとしている。

日本企業が“賢い需要家”になるために

では、これからの10年、日本のエネルギー需要家企業が取り組むべきことはなんだろうか。「備える」「実行する」「継続する」の3つのフェーズで、5つの取り組みを提案したい(図表)。

出所:ボストン コンサルティング グループ

まずは「備える」。エネルギーは欲しければいつでも手に入る、という時代は終わった。必要なものを、必要な時に、必要な量だけ確保するには準備が欠かせない。そのために①自社のエネルギー使用実態を把握し、脱炭素だけでなく価格変動リスクも理解する、②エネルギーに関する動向について、常にアンテナを立てておく――という備えが大切だ。

エネルギー業界の変化は激しい。実際、ここ数年のエネルギー技術は急速に進化している。技術の進展によってゲームのルールが一気に変わることも十分理解しておく必要がある。

備えたら、次は「実行する」ことを考える。ここでは③再エネ発電事業者とのCPPAなど、再エネ調達に能動的に動く、④新たなビジネスチャンスと捉え、再エネ設備に投資する――の2つを挙げておく。先行する欧州の動向をにらみ、CPPAについては国内でも同様の動きが見られる。また、太陽光発電、陸上風力、洋上風力のSPC(特別目的会社)に参画したり、一部に出資したりすることで、作った再エネ由来電力の一部を受給することも考えられる。

その先は「継続する」だ。⑤組織能力を構築し、継続的な競争優位性を目指す――ことが大切になる。内に向けては自社のエネルギー状況を把握し、外に向けては最新の情報に目を光らせながら、能動的に先手を打つ。こうした組織能力を身につけていかなければならない。必要ならば、外部からのエキスパートの採用、パートナーの活用、あるいはM&A(合併・買収)なども考慮すべきだろう。

エネルギーシフトに対応しながら、同時に収益の安定性を実現すること、さらに新規事業にビジネスチャンスを見出すこと。そのために、備え、実行し、継続すべきことがある。欧州企業よりもさらに深い知見を有した“賢い需要家”であることが求められている。

その年のビジネスを考えるうえで経営者が知っておくべきトピックを、BCGのエキスパートが解説する『BCGが読む経営の論点』。最新刊では、時代の変化のカギを握る4つのテーマと、これからの企業に必要とされる重要な4つの経営能力を取り上げている。第1章「エネルギーシフト――日本企業は“賢い需要家”を目指せ」では、再生エネルギーへの転換と企業がこれにどう対応するべきかを論じている(詳しくはこちら)。