「類型化」の思考ツールで提案型営業の実現について考える―『BCG 経営課題解決「20の思考ツール」』第2回

ビジネスの課題解決の手法を提示したBCG井上 潤吾の書籍『BCG 経営課題解決「20の思考ツール」 成果を最大化する「7つの要素」』(本書の紹介は第1回を参照)。今回は、その中から思考ツール「類型化」の概要を抜粋、要約。さらに、このツールのケーススタディとして、提案型営業の実現について検討する。

複雑な情報の整理を助ける思考ツール「類型化」とは

類型化とは、物事や事象を共通の特徴に基づいて分類し、一定の型に当てはめることを指す。複雑な情報の整理や理解が容易になること、予測や分析をしやすくなること、コミュニケーションが円滑になることがメリットだ。

以下、ビジネスの現場でよく用いる類型化を紹介する。

① 顧客セグメント
顧客を類型化する典型的な切り口として、地理的変数(地域・国など)や人口動態変数(年齢・性別・所得・職業など)、心理的変数(価値観・ライフスタイル・性格など)、行動変数(購買頻度・利用状況・ロイヤルティなど)がある。例えば、化粧品市場では人口動態で10代向けやシニア向けに製品を分けるし、飲料メーカーは地域の嗜好に合わせて味を変える地理的セグメンテーションを使う。

② 業界構造と競争戦略
企業戦略は属する業界の構造によって左右される。例えば、市場の競合企業数や製品差異によって完全競争、独占的競争、寡占、独占の4種類に分類するのが典型的だ。
市場で競合に打ち勝つための競争戦略にはいくつかのパターンがある。米国の経営学者、マイケル・ポーターが『競争の戦略』で提示した3つの基本戦略では、企業が競争優位を築く方法として、低コストで業界最安を実現するコストリーダーシップ戦略、独自の価値で高付加価値化する差別化戦略、特定セグメントに絞り込む集中戦略(ニッチ戦略)がある。

③ 組織構造
組織構造の類型としては、機能別組織、事業部制組織、マトリクス組織がある。
機能別組織は従業員を経営管理・営業・生産・開発など専門機能ごとに部署編成する形で、中小企業や単一事業の企業でよく見られる。事業部制組織は製品ラインや地域ごとに事業部を持つ大企業に多く、各事業部が独立採算で活動する。マトリクス組織は機能軸と事業軸の両方で編成し、各従業員が二重の所属を持つ構造だ。例えばグローバル企業で製品カテゴリ別の部門と地域別の部門をクロスさせ、各拠点において製品マネージャーと地域マネージャー双方に報告する形である。

④ ビジネスモデル
どのように収益を上げるかというビジネスモデルの類型は、多種多様である。例えば、定額料金で継続課金する「サブスクリプションモデル」は安定収入を得る典型パターンで、基本サービスを無料提供し一部プレミアム機能に課金する「フリーミアムモデル」はユーザー数拡大と収益化を両立させる手法である。売り手と買い手を仲介して手数料を稼ぐ「プラットフォームモデル」もある。製品本体を安価または無料で提供し、消耗品で利益を得る「レーザーブレードモデル」も古典的だが有力な戦略である。さらに、「フランチャイズモデル」「広告モデル」などもある。
このように収益源や提供価値の違いによってビジネスモデルを類型化しておくと、新規事業の発想や競合分析に役立つ。現実には複数のモデルを組み合わせたハイブリッド型も多い。

⑤ 技術革新
技術や製品のイノベーションにも類型がある。多くの場合、小さな漸進的改善は「カイゼン」と呼び、機能や効能が数倍になったり、コストが数分の1になったりするような革新は「イノベーション」と呼ぶ。自社がどちらの方向を狙うかによって、手法や要する期間、経営資源が異なるため、企画時に分類をした上で取り組む必要がある。
技術革新としては、製品そのものの革新を行う「プロダクト・イノベーション」、生産プロセス等の革新を行う「プロセス・イノベーション」といった分類や、社外の知識を取り入れる「オープンイノベーション」と自社内で完結する「クローズドイノベーション」の対比などもある。

思考ツール「類型化」のケーススタディ

思考ツール「類型化」は、顧客のニーズの把握にも有効だ。いわゆる御用聞き営業を主に行っていた企業が、提案型営業を目指す際にも活用できる。以下のケースで例を示す。

グレーボックス例
IT サービスプロバイダーZ社は、売り上げ2兆円、営業利益2000億円、顧客企業は世界の大手・中堅企業で、システム設計・開発、コンサルティング、アウトソーシング、クラウドサービス、サポート(保守)などを提供している。Z社の社長は、IT請負の需要が下降し、今後は顧客価値をどう付けるかが問われていることを踏まえ、提案型営業に改めて挑戦すべきだと考えた。 そこで、営業担当役員I氏に提案型営業の実現を検討するよう指示した。

I氏は、提案型営業の実現性をどのように高めるかについて思案した。社内の経験や知恵は断片的で体系化されていないことを考慮し、まずは外部の知恵を借りて体系を学び、それを基に自社に適したプロセスと体制を作ることを決めた。そこで、IT業界における提案型営業の専門家A氏を外部に求め、教えを請うことにした。

A氏によると顧客企業のニーズは4層に分けられる(図表1)。これは、類型化の思考ツールを活用した分類だ。

類型化の思考ツールにより、顧客のニーズは、第1層「商材レベルでのニーズ」第2層「特定の事業課題に対するソリューションニーズ」第3層「経営として取り組むべき本質的なアジェンダ」第4層「将来構想からみた成長機会」に分けられる。

下から順に第1層は商材レベルのニーズであり、対象はIT部門課長や調達部門課長など。短期的なニーズが多く、自社に商材があれば提案し、なければ外部調達、または辞退となる。

第2層は事業課題に対するソリューションへのニーズで、事業部長や機能部門長が決裁者となる。顧客課題を特定し、必要な商材を組み合わせて解決策として提供する。これも短期的なニーズが基本である。

第3層は経営レベルの本質的アジェンダに関するニーズで、CIO(最高情報責任者)が典型的な顧客となる。あるべき姿を提言し、実現のためのソリューション群を提示する必要がある。ここでも短期対応が求められる。

第4層は将来構想に基づく成長機会で、CEO、COO(最高執行責任者)、CFO(最高財務責任者)、CDO(最高デジタル責任者)、CIO、CHRO(最高人事責任者)などCxO層が対象となる。技術や社会変化を踏まえて成長機会を特定し、構想を提示しながらソリューション需要を喚起する。これには短期から中長期まで幅広い視座が必要であり、ニーズの兆候が見えた段階であれば、構想提案を通じて認知を高めることが重要となる。

I氏と営業戦略企画部は、4層のニーズとZ社の現状を照らし合わせた。すると、対応できているのは第1層と第2層で、第3層はまれに属人的に実施しているのみ、第4層は将来構想を提示しても実需につながらず、成果が出ていないことが判明した。

このためZ社は、第3層ニーズへの対応力を高め、第4層ニーズをどう醸成していくかを検討課題に設定。さらにA氏と協議して提案型営業を成功させる要諦を層ごとに整理し、今後の目標とした。例えば、第3層に関しては、経営アジェンダをクライアントと定期的に議論して他社と差別化できるソリューションを提供する、といったものだ(図表2)。

提案型営業成功の5つの要諦。①あるべき姿(4層)から経営アジェンダを特定し、それを解決するソリューション(2層)を提供、②経営アジェンダ(3層)を定期的に議論し、差別化できるソリューション(2層)を提供、③特定課題(2層)の背後にある経営アジェンダ(3層)を確認した上でのソリューション提供、④特定ニーズの周辺課題もトータルに解決するソリューションに幅を広げる、⑤先端企業との案件で知見を得て、学びを他顧客に横展開する

本書内では、この後Z社が提案型営業を実現するまでの詳細や、他の思考ツールやケーススタディも紹介している(購入はこちら)。

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