「アナロジー」の思考ツールで不況下の経営を考える―『BCG 経営課題解決「20の思考ツール」』第3回

ビジネスの課題解決の手法を提示したBCG井上 潤吾の書籍『BCG 経営課題解決「20の思考ツール」 成果を最大化する「7つの要素」』(本書の紹介は第1回を参照)。今回は、その中から思考ツール「アナロジー」の概要を抜粋、要約。さらに、このツールのケーススタディとして、不況下での経営を考える。

類似性を活用して問題解決の糸口を見つける「アナロジー」とは

アナロジーは、ある対象と別の対象の間にある共通点を見つけ、それを基に考える思考ツールで、教育、ビジネス、科学、マーケティングなど幅広い分野で活用されている。

アナロジーを活用するステップは以下である。

  1. 共通点を探す:「ABはどこが似ているか?」
  2. 対応関係を作る:「Aのこの部分は、Bのどこにあたるか?」
  3. 応用する:「この類似性を使って、新しいアイデアを考えられるか?」

具体的な例として、宅配便と通信網を考えてみる。宅配便では、発送元から荷物を集荷したら、集荷所から配送センターへ輸送し、発送先の配送センター、そして配送所へ送られ、そこから配送先へ届けられる。

一方、通信網は、コンテンツやメッセージを送信側の端末から送ったら、地域の交換機に届けられ、基幹網を通って受信側の交換機に送信され、受信側の端末に送られる。送られるものは、宅配便の場合は荷物であり、通信網の場合はデジタル情報だ。主に活躍するのは、宅配便の場合は人であり、通信網の場合は回線や機器である。

歴史を振り返ると、通信と物流は、互いにヒントを与え合いながら発展してきた。インターネットが普及する基となったパケット通信は、情報を荷物(パケット)にすることによって回線の稼働率を劇的に高めるところから始まった。一方、物流の2024年問題(働き方改革関連法によるトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用されることにより物流の停滞が懸念された問題)についても、通信網の仕組みを参考にすれば、解決のヒントが得られる。

例えば、通信網では、基幹網の有効活用のためにできるだけ回線を集約して送受信している。これを宅配便に応用すれば、集荷・配荷センターを再配置して、輸配送効率を高めるネットワークの最適配置を随時行うことにつながる。また、通信網では、事業者間のネットワークの共用を図っているが、それを宅配便に応用して異なる事業者間での混載を実現できれば、輸配送効率は格段に向上する。

思考ツール「アナロジー」のケーススタディ

外部環境によって逆風が吹いたとき、企業は何をすべきだろうか。経営者が不況下で打つべき施策について、アナロジーを使って考える例を示す。

グレーボックス例
消費財メーカーX社の社長は、社長就任5年目にして世界の景気が下降局面に入ることを初めて経験し、どういう対応をすべきか頭を悩ませている。毎週の役員会議では各役員がそれぞれの持論を展開し、何が正解かわからない。そこで、経営企画担当役員A氏に対応方針を検討するよう指示を出した。

A氏が不況への備えに関して調査を行ったところ、投資家は、不況下において企業を次の3つのセグメントに選別して投資判断をしていることがわかった。財務体質と事業基盤が比較的健全で、不況耐性が高い「持てる企業」、いずれの要素も大幅に見劣りする「持たざる企業」、2つの中間である「灰色企業」だ。

自社の状況を分析した結果「持たざる企業」であると判断した場合、不況下では企業再建家のアナロジーを用いるのがよい。企業再建家(ターンアラウンド・マネージャー)は、まず企業の短期の安定と生存を図る策をなりふりかまわず打つ。

しかし、短期の延命が最終ゴールではない。危機が生み出す「好機」を見取り、それを生かす「設計図」を描く。そして、現在苦闘する企業を、将来、競争優位のある企業へつくり変えるために、思い切った構造転換を迅速に行う。この姿勢とやり方を参考にすることで「持たざる企業」は、明日から早速実行すべきことを以下のように列挙できる。

① 流動性資産と持ち時間を「見える化」する

  • 複数の環境シナリオを書いてみて、自社の資金繰りがどう変わるか推定する
  • 取引先の倒産や銀行の貸し渋りなどの事態に備える

② 経営指標を頻繁に社内に開示し、危機感を醸成する

  • 受注、粗利、受注残などの経営指標を、2週間に1回社内に公表する

③ 出血を止めて手元資金を確保し、経営を安定させる

  • 資本支出の凍結、社内プロジェクトの停止・延期、採用の縮小・延期などを行う
  • 在庫の徹底削減、売り掛けの厳密な管理を行う
  • 社員をむやみに不安にさせずに、自分の業務に集中させる
  • 最重要の顧客に傾注する
  • 経営の方針を社内外へ繰り返し明確に発信する

④ 事業の長期的な成功可能性を見極め、本当に期待ができる事業のみを選定する

  • 不採算事業は撤退・整理・売却する
  • 今は黒字でも将来性が見込めない事業は、思い切って整理する

⑤ 複数の売り上げシナリオを作ると同時に、「最低損益分岐売上」を設定

  • 悲観的な売り上げシナリオでも利益が確保できるコスト構造を設計する
  • ギリギリの固定費で損益分岐する売り上げも設定する

⑥ トップダウンで経営するが、社員の巻き込みにも労を惜しまない

  • 荒療治はトップにしかできない。「船頭多くして船山に登る」事態を避ける
  • 意思決定の速度を上げる
  • トップの意図や自信を社内外に頻繁に伝える
  • 優秀な社員には会社の期待を伝え、引き止める

このようにアナロジーを使うことで、危機をテコに、企業を大胆につくり変える企業再建家のスキルと経験を取り入れられるのである。

本書内では、自社が「持てる企業」だった場合の不況下での経営の考え方や、他の思考ツールやケーススタディも紹介している(購入はこちら)。

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