AIが同僚になる時代、人間は何を担うべきか――『BCGが読む経営の論点2026』から
AIの進化のスピードは凄まじい。5年前であれば、AIが業務推進の主体になるなど現実味を欠いていたが、今日ではそれがいつ実現してもおかしくない状況になりつつある。数年後には働き方も根本的に変わっていることが予想される。AIが同僚となる時代に、私たち人間には何が求められるのか。
『BCGが読む経営の論点2026』(日本経済新聞出版)では、BCGの植草 徹也と西田 忠光が、BCGの業務の現場での実践を手掛かりに、AI時代の職場での人間の役割と求められる人材像について解説している。その一部を要約して紹介する。
AI活用で進化する、BCGでの働き方
BCGでは、AIを活用した企業変革を数多く支援する一方、自社内でのAI活用にも重点を置き、働き方を進化させている。生成AIが企業の現場で本格的に利用されるようになった2024年初めから、コンサルティングをはじめとする日々の業務に生成AIを導入・活用する取り組みを立ち上げ、全社的な推進活動を行っている。
この取り組みにより生成AIの活用は大きく広がり、多くの業務で大幅な効率化が図れた。たとえば、コンサルタントの業務時間の2割強を占めるスライドや資料の作成で4割の時間短縮が可能だったほか、コンテンツの検証や洗練化で5割超の短縮、調査、メモの作成でもそれぞれ約4割、データ分析では約3割の短縮が実現した。
AIに対応できる範囲が広がるにつれ、何かあれば「とりあえずAIに聞いてみよう」という行動に出やすくなる。それによりかえって業務の質が低下する業務や、そもそも現状のAIでは対応できない業務も明らかになった。
AIに置き換えられない業務とは
たとえば、解くべきクライアントの課題をあぶり出すためのインタビュー設計では、AIに質問リストの作成を指示すれば、一定の案が瞬時に得られる。しかし、それだけでは本質的な課題の特定には至らない。
さらに、議論を通じて思考を深める場面でも、AIの役割には限界がある。複数のコンサルタントが異なる経験や視点を持ち寄り、ぶつかり合いながらアイデアを磨いていくプロセスは、今のところ人間にしか担えない。AIはその前段階の「壁打ち」相手としては有効だが、AI単独では最終的な思考の結晶化にはたどりつけない。また、クライアントとの対話を通してアウトプットを共創していくことも、現状のAIでは対応ができない。

人間がフォーカスすべき領域「関係性」「多様性」「価値判断」
裏を返せば、AIが高度化しても人間にしか発揮できない価値があることが浮き彫りになったということだ。それこそがAI時代に人間が力を注ぐべきことだと言える。主なポイントを次に挙げる。
- 人間同士で切磋琢磨し、新しいものを生み出し、物事を動かす
多くの活動は人間同士の関係のなかで行われる。相手が置かれている状況や力関係などの文脈も理解し、相手の感情や心理状態に配慮したうえで、すべきことを考え、ビジョンを示し、意思決定を行う。それが論理の正しさや、情報の正確さと等しく、あるいはそれ以上に重要になってくる。人間関係を築き、さまざまな人が集まった組織が動かなければ、物事は前に進まない。その役割はAIには担えないものだ。人と人、組織と組織とが複雑に関係しながら進むプロジェクトのマネジメントや、営業における顧客との関係構築などは、人間の仕事である。
- 価値観や思考の多様性を確保する
AIを使うことで、集団の思考の多様性が喪失してしまうことは、想像以上の影響を及ぼすかもしれない。というのも、AIは同じ種類のプロンプト(指示文)に対して似たような回答を何度も繰り返すため、AIに頼れば頼るほど考え方が均質化していくからだ。固有の役割を与えたAIエージェントなどは、異なる立場からの意見を出すことも一定程度可能だが、多様性という点で、人間の豊かさには到底及ばない。唯一の正解はない世界で、新機軸や新たな視点を提示して価値を創出するのは、人間ならではの仕事である。
- 価値判断と説明責任を担う
AIは与えられたデータに基づき論理的な判断を下すが、コンテクスト(文脈)や人間同士の関係性、社会的・道徳的な意義まで踏まえた最終的な意思決定者として責任を持つことはできない。たとえば、採用面接においてAIに採用・不採用を判断させること自体は可能である。しかし、評価の妥当性を吟味し、公正さや倫理的な側面も含めて採用するかを判断するのは人間の役割である。高度なAI時代において企業や社会がAIを信頼して受け入れるためには、人間が最後の説明責任を果たさなくてはならない。
なお、テクノロジーは目的を達成するための手段であり、それ自体が目的になることはない。AIの得意領域では人間は勝てないものの、そもそもAIをどのような意味合いで使い、どんな働き方をさせるかということは、人間が決めなければいけない。使い方を間違えれば悪用も可能なので、人としての倫理観が問われることになる。
高度なAIの時代に求められる人材像とは
AIが高度化するなかで人間としての価値を発揮できるのはどのような人材なのか。マインドセット、働き方、スキルという3つの切り口が考えられる(図表)。

まず重要なのは、変化を前向きに捉えるマインドセットである。AIによって自分の業務が変化することは避けられない事実である。BCGの「職場におけるAI活用に関する意識調査2025」では、41%の人々が「10年以内に自分の仕事がなくなるかもしれない」と考えていた。AIの威力を目の当たりにするにつれ、自らが生み出せる価値に疑問を感じている人が多いことがうかがえる。その疑問を出発点に「既存のやり方や業務をどうにかして維持できないか」という考えから早く脱却し、新たなスキルを身につけ、自分の力を異なる形で発揮していく絶好の機会として捉えたほうがよい。
スキル面では、AIリテラシーを高めるとともに、人と協働する人間力とそれを両立することが、働き方の面では、AIと共生し、人が価値を発揮できる領域に集中することなどが重要になる。
ビジネスを考えるうえで経営者が押さえておきたいその年のトピックを、BCGのエキスパートが解説する『BCGが読む経営の論点』。最新刊ではこれまでの常識が通用しない時代といえる2026年に、経営者が優先的に考えるべき10の論点を提示している。第10章「AIとの協働の時代を生きる」では、求められる人材像をマインドセット、スキル、働き方の観点で考察する(購入はこちら)。