都市における高齢化対策 住みやすい街づくりを経済成長につなげる

2025年9月15日は敬老の日だ。現在、世界は“都市化”と“高齢化”という2つの大きな課題に直面している。2050年までに世界の人口は約97億人になると予測されており、60歳以上は21億人に達する見込みだ。BCGは、そのうち15億人が都市部で暮らすと分析している。
世界保健機関(WHO)は、物理的・社会的な環境は高齢者の健康に直接影響を与え、安全でアクセスしやすい公共施設や交通手段、歩きやすい場所の整備が必要だと指摘している。 BCGで交通・都市・インフラ分野のグローバルリーダーを務めるスレーシュ・スブディは「すべての都市にとって、高齢者を考慮したシステムやインフラを設計するための計画を策定することは不可欠だ」と話す。「高齢者が健康で幸せに過ごせる環境を整えることで、救急医療や介護施設に頼る人の数が減少し、医療コスト全体が下がる。また、経済的に自立した高齢者は都市にとって重要な収入源にもなり得る。設備が整った都市には高齢者が移住しやすいため、すでに一部の地域では退職者向けのビザを提供するなど、高齢者層の誘致に力を入れている。」
都市計画者や企業のリーダーは、高齢者が住みやすい街にするため、以下の3点を重視して計画を練る必要がある。
・移動のしやすさ:高齢者が健康的に歳を重ねるためには、買い物や医療施設、レジャー施設などに安全に出かけられることが重要だ。そのためには、歩道の整備や公共交通機関のバリアフリー化などに投資しなければならない。たとえば、カナダ・トロント市では特定の地域を「高齢者安全ゾーン」に指定し、信号機の秒数が高齢者の歩行速度に合わせて長めに設定されている。米シアトルでは歩行者用の道の傾斜を示す地図を提供。韓国・ソウル市では、65歳以上の人は地下鉄を無料で利用でき、ほとんどのバスに乗り降りしやすいようスロープが設置されている。
・コミュニティ:公園や市場、フードコートといった公共スペースは、若い世代を想定して設計されていることが多い。都市計画者はベンチや手すり、公衆トイレの増設を検討する必要がある。公共スペースを活用して地域コミュニティのつながりを促進し、世代間で交流できるようにすることも重要だ。日本では、多くの都市公園に高齢者向けの運動器具が設置されており、定期的に体操やストレッチのプログラムも実施されている。また、駐車場や図書館など多くの公共施設がデジタル化・自動化される中で、高齢者が最新技術を利用できるように支援することも大切だ。

・ヘルスケア:小規模で地域に密着したクリニックの活用や、遠隔診療の導入など、医療サービスの提供方法の見直しも求められる。たとえば中国・上海市では、地域の健康センターを拡充し、夜間診療を提供することで、高齢者が遠い大病院まで移動したり長時間待ったりする必要がなくなった。
また、世代間で交流できる地域密着型の生活環境「コミュニティ・リビング」という考え方も世界的に広がっている。BCGのシンクタンク、BCGヘンダーソン研究所(BHI)の日本リーダー、苅田 修は「コミュニティ・リビングは、高齢者が自宅やその近くで必要なケアを受けられる仕組みの一つだ」としている。こうした取り組みにより、高齢者はその場で医療・支援サービスを受けながら、住み慣れた場所で安心して生活を続けることが可能になる。
変化を加速させる手段として、利用しやすい規制や技術の活用が挙げられる。たとえば建築規制を通じて、建設段階でアクセシブルな設備を導入することができる。これは既存の建物を後から改修するよりも容易でコストも抑えられる。また、技術を活用して政策立案に必要なデータを収集することも可能だ。スペインのサンタンデール市では、都市のデジタルツイン(仮想空間に再現するモデル)を作成し、各地域の“高齢者フレンドリー度”を評価したり、導入の影響をシミュレーションしたりしている。
民間企業にも発想の転換が求められる。都市で事業を展開するすべての企業は、自社の製品やサービスを高齢者の視点で見直す必要がある。具体的には以下のような取り組みだ。
- コンロに火をつけっぱなしにした場合、警報を鳴らすなど、安全機能の搭載
- 従来のドアノブではなくスライド式レバーを採用するなど、負担を軽減する製品設計
- 飲食店で、高齢者でも食べやすい特別メニューを提供
- ベッドの高さを低くし、滑りにくい床材に変えるほか、使いやすい操作パネルと電源コンセントを備えたホテル
- 歩行が不自由な人でも利用しやすい搭乗口や、機内に医師を配置するなどの航空会社のサービス改善
スブディは「高齢者を都市に呼び込み定着させることは、経済成長のための戦略だと考えられる。高齢者に適したインフラへの投資は、単なるコスト負担ではなく、医療費の削減や経済効果により十分に回収できる。変化にいち早く対応した都市は、競争上の優位性を手にすることができるだろう」としている。
原典:「Urban Populations Are Aging. How Can Cities Adapt?」(2025年4月)